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老兵は死なず~“フォー・タイムス・チャンピオン”ホーストが引退しない訳(上)(2ページ目)

年末恒例のDynamite!!で、現役王者シュルトに叩きのめされた、栄えある四覇王ホ-スト。しかしそれでも現役に固執する彼の執念の正体を読み解く。

執筆者:井田 英登

“世代交代”をひたすら拒む四覇王

大晦日の試合は、「今年(2005年)最初にして最後の試合」とホースト自身が語るとおり、先シーズン彼の唯一の試合であった。言い換えるなら、現役続行が可能かをこの一試合で証明せねばならない。その試合の相手に、今年のGP覇者を指名するあたり、相も変わらず“誇り高き王者“として振る舞う、ホーストの巨大なプライドが感じられる。

花道を4本のチャンピオンベルトとともに華々しく入場する“フォー・タイムス・チャンピオン”アーネスト・ホースト。過去十年間K-1の権威を体現し続けてきたテクニシャンであり、今年GPに至っては、怪我が癒えないという理由での出場辞退。引退説が囁かれる渦中で、彼はGP開幕戦の会場でもあったこの大阪ドームのリングに立ち、「GPはもう引退する。だが闘う事は止めない。ワンマッチではまだ闘う。気持ちが変わればGPにも戻ってくる」ーーK-1という戦場の“最前線”は退くが、まだ辞めない。ある意味、未練たらしく非常に歯切れの悪い、セミリタイア宣言だった。

ホーストが日本で4本のベルトを全て巻いて登場したのは、実はこれが初めてのこと。当人は「特に意味は無い」と報道陣の追求を躱したが、明らかにこの試合に“通常の試合”とは違う思い入れを持ってむかっているのがわかる。だが、そのニュースを聞いて、対戦相手である現役王者のシュルトはそれをせせら笑った。「遠いオランダからわざわざ4本も持って来るなんて大変なことだな。だが、ベルトは何本持っているかではなく、誰が持っているかが重要。今年のベルトは俺が巻いている俺の方が上だろう」と。

この試合において彼に課せられたテーマは、“世代交代”だ。
プロモーターや対する若い選手にとっては、「旧世代の終わり」を証明することがテーマになる。年老いた王が血を流して大地に倒れる時、そこから新たな季節の始まりを告げる若い芽が姿を現す。しかし、死を期待される王にとっては、王座さん奪者の傲慢と期待を叩き潰し、己の健在を歴史に刻み込んでみせる事が使命でもある。この対戦で、両者の賭けたチップの山の高さは、お互いのこれまで積んで来たキャリア全てに等しい。



アーネスト・ホースト
四度目のGP制覇を成し遂げた2002年のホーストを、あわやという所まで追い込んだ“K-1ルーキー”シュルト。実はK-1マッチ二戦目だった。
かつて2002年8月に国立競技場で開催された伝説の第一回「Dynamite!」で、この両者は対戦している。桜庭vsミルコ、吉田vsホイスといった当時話題の中心となったカードと比べれば、訴求度の高い試合ではなかった。むしろ、スタ-選手・ホーストの顔見せ的ニュアンスの方が濃いといってもいいカードだった。

なにしろ、ホーストは、その一週間前にもラスベガスで試合をしているのである。ここに普通トップクラスの選手を当ててくる流れではない。対戦相手に起用されたシュルトは、この大会に先だつ6月の広島大会で、当時交流のあったPRIDEから派遣される形でK-1初参戦し、判定で武蔵を破っている。だが、K-1内部の格付けとしては“総合上がりのルーキー”であり“見栄えはしても不器用”という意味合いで、ホーストの圧勝が見込めるカードだった。しかし、すっかり軽視されていたこの伏兵が、思わぬ適応性をみせた。長身を活かした伸びのあるストレートや、顔面を襲う高角度の膝をガンガンぶち込む猛攻をみせ、パワーファイターの一点突破的な攻撃に弱いホーストの弱点を露呈させてしまったのだ。

当時のレポートで僕はこの試合の様子を、こう書いている。

「シュルトの伸びのある右ハイ、膝蹴り、ストレートにホーストが苦戦。じりじりとシュルトが距離を詰め、ホーストが後ろに下がる展開が続く。ロープ際に押し込んで、ホーストの首をひじで押し上げる姿はあたかも恐喝される被害者のようでさえある。得意のローも距離の奪い合いで先攻してくるシュルトの積極性に、なかなか放つ機会が少ない。大波に翻弄される小舟のようになったホーストの目が、逆に獲物をねらう猛禽類のように光を放っているのがわかる。まるで投網を投げるようなフォームでフックをくり出すホーストの姿は、今まで日本のファンには一度も見せた事もないような必死の姿であった。」

試合後半も、ホーストがペースを握る局面は皆無に近く、最後までシュルトの猛攻は続いた。結局、判定はドローに終わったが、実際の内容は限り無くシュルトのゲームであったと思う。かろうじて黒星にならなかった理由を探すなら、ホーストが攻めの姿勢を捨てずに“返し”のローやロングフックを打ちかえしていた事ぐらいしか要素が無い。スター選手に対する“情実判定”だった、と言われても仕方が無いような引き分けであった。

試合後「連戦でコンディションが作れなかった。反省している」と語ったホーストだが、実質負けに等しいこの試合について、彼のなかで長年しこりのようなものが残ったであろう事は、想像に難くない。

シュルトも、その後本格的にK-1参戦しており、当時より遥かに経験を積んでいる。事実、ホーストも、同じ国籍を持つこの後輩について、「今回のGPは彼が勝つだろうと思っていた。以前闘ったときより経験を積んでいて、攻撃が的確になったと思う。」と、普段滅多に他の選手を褒めない彼としては、非常に高い評価を与えている。

しかし、今回の対戦にあたっては「彼がGP王者になったから指名したまで。彼以外の選手が優勝していたら、その選手と闘っていただろう」と、あくまで“格上”の立場からの余裕の物言いを崩さなかった。
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