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新しいプロレスか?時代錯誤のマッスルコメディか? 「ハッスル」お前は何者だ(下)(3ページ目)

破竹の勢いでブレイクしつつあるプロレスイベント「ハッスル」の秘密を、あくまで格闘技サイドの視点からシビアに探る。

執筆者:井田 英登

「ファンタジー・ファイト」から「ファイティングオペラ」へ

この直後7月25日「ハッスル4」からは「ファイティングオペラ」というサブタイトルが冠せられることになった。

かつての「WRESTLE-1」が標榜した“ファンタジーファイト”には実態が感じられなかったが、このキャッチフレーズの意味はわかりやすい。

リングに上がるレスラーは虚構を演じる“物語の登場人物”であり、オペラのように大げさに誇張された様式美的演技を見せていく。ただその物語の中には、現在のプロレス界のあり方を痛烈に批判する“毒”がこめられている。プロレスという「古い皮袋」の中に盛られた、“リアルファイト時代のプロレスの再生”という“新しい酒”。それが「ハッスル」の選び取ったスタイルであった。

川田”
ストイックで不器用なキャラを逆手に、全日本の“デンジャラスK”から“ハッスルK”へ変身しつつある
たとえば、全日本時代から周囲との協調を避け、独自の美学を貫いてきた川田利明に対して、高田総統の言葉はその半生を否定してしまうような冷や水を浴びせかける。「川田くんは“俺だけの王道”という言葉が気に入っているようだけど、私にはさっぱり分からない。彼の(三冠)ベルトは引きこもりの象徴だろ?」と揶揄する言葉には、他団体との交流を拒否する鎖国政策の末に、選手の大量離脱を招いたかつての全日本プロレスのありようを痛烈批判する“毒”が込められている。

また、返す刀でかつて新日本プロレスのトップを勤めた長州力にもこんな言葉を投げつける。「私の頭の中に辞書がある。その辞書で“革命戦士”と引いてみたよ。そうしたら、“過去の栄光にすがり、グズグズしている事”と書いてあったよ」

ギャグの糖衣にまぶしたファンタジーの“登場人物の言葉”として語られるからこそ口に出来る、真実を切り裂くプロレス批判。

“真剣勝負の看板を降ろしてそれでもプロレスを生き残らせたいのなら、ここまで徹底してやってみろよ。客を沸かせるために手段を選ばないエンターテイメントとして、居直れるのか?”という強烈なメッセージが「ハッスル」のリングからは発信されている。背景には「ハッスル」のブレインを勤める紙プロ編集長山口日明氏の、ジャーナリストとしての視線が感じられる。

小川ハッスル”
旧プロレスの象徴・長州力。「ハッスル」のフィクションに染まらない異物感で逆に光を放つ。“意固地なオヤジ”自体がキャラでもあるのだが…
こうした悪のオーラを放つ高田総統のシニカルな言葉は全て「ハッスル軍」=「旧プロレス」への挑発だ。受けて立つ「ハッスル軍」のメンバーは、「ハッスル」というキーワードのもと“新時代のプロレスラーに生まれ変わる”という内面のドラマを観客の前で演じている。

「そこのコスプレトリオ! ロートルの長州! キミらは決して一枚岩ではない。その結束力では、新しいプロレスなんて出来るわけないんだよ。今日の勝利を酒の肴にして、仲良しごっこをやっていろ!」(ハッスル4)という挑発は、ギャグではない。むしろ恐ろしいまでに直球の、プロレス再生を問うメッセージではないか。

さらに先日の「ハッスル5」では、高田総統の口からこんな台詞も飛び出した。

「3連休の最後に、私の崇高な姿を拝みに来た、暇で低脳な下々の諸君、我こそが高田モンスター軍総統の高田だ!キミは、プロ野球の古田クンを知ってるかい? 彼に対して、一部の批判があるようだが、私は彼を断固支持する!」

球界再編問題で、プロ野球選手会が行った史上初のスト問題に対する言及である。先に「ハッスル」は現実を取り込んだ超虚構(メタフィクション)として機能しつつあると書いたのは、こういう視点を指す。

「我々はこの腐りかけた日本のプロレス界を劇的に変えようとするのが目的だ。必ずや、壊れかけた瓦礫の中から、新たなる道を築き上げる事を約束しようじゃないか。その大役が出来るのは間抜けなハッスル軍の諸君ではない事は、誰もがわかっているな? その大役が務まるのは、我がモンスター軍に他ならない。だからこそ、我々は古田クンを断固応援しようとしているのだ」

一見崩壊しつつあるプロレスの「遺産」を、格闘技ビジネスで成功したDSEが火事場泥棒のようにかっさらおうとしているようにも見える「ハッスル」だが、底辺に流れる主張は意外なまでに骨太だ。

スポーツの第三カテゴリーから第四カテゴリーへ。お祭り騒ぎでファンを浮かれさせながらも、確実にイズムを植えつけていく“ハッスル流機構改革”。その成否は、長年同床異夢を強いられてきた「プロレス」と「格闘技」にきちんとした一線を引く可能性を秘めている。

格闘技サイドに立つ我々も、その行く末を注視しておく必要があるのではないだろうか。

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