このときの様子を、僕はBoutreviewのレポートでこう書いた。
リングに上がった両者の体格差は“異種体格戦”と言いたくなるような、異様な佇まいである。小刻みに左右に身を振りながら動く武蔵。じわじわと獲物を狙う視線で武蔵の動きを追う曙。小さくジャブやローを放ってはヒット&アウェイを繰り返す武蔵に対し、じわじわ距離を詰める曙はぶちかまし気味に相手をロープに押し込む。武蔵は再三の押し込みに、抵抗せずブレイクを待つという展開。
だがお互いの意地がかかった試合がそのままで進むわけもなく、緊張感が一気に弾ける瞬間が訪れた。2R開始36秒、曙が武蔵をコーナーに追い詰め左ストレート。ダウン気味に腰から崩れ落ちた武蔵に、曙は容赦なく左フックを叩き込み、静止しようとする角田レフェリーを振払って二発、三発と後頭部に鉄槌を見舞う。武蔵は意識こそ喪失しなかった様子だが、このダメージで視線が怪しい。
昨年のGP一回戦のボタvsアビディ戦同様、通常のK-1ならここで曙の失格負けとなるところだが、この試合の特別性を鑑みてか、武蔵のダメージ回復を待つという緊急措置がなされる。だがこれだけのダメージがそう簡単に消えるわけも無い。リングにあがった中山健児ドクターは続行に難色を示す。
だがお互いの意地がかかった試合がそのままで進むわけもなく、緊張感が一気に弾ける瞬間が訪れた。2R開始36秒、曙が武蔵をコーナーに追い詰め左ストレート。ダウン気味に腰から崩れ落ちた武蔵に、曙は容赦なく左フックを叩き込み、静止しようとする角田レフェリーを振払って二発、三発と後頭部に鉄槌を見舞う。武蔵は意識こそ喪失しなかった様子だが、このダメージで視線が怪しい。
昨年のGP一回戦のボタvsアビディ戦同様、通常のK-1ならここで曙の失格負けとなるところだが、この試合の特別性を鑑みてか、武蔵のダメージ回復を待つという緊急措置がなされる。だがこれだけのダメージがそう簡単に消えるわけも無い。リングにあがった中山健児ドクターは続行に難色を示す。
文中にも「昨年のGP一回戦のボタvsアビディ戦」と例をあげているのだが、スリップダウンで倒れた相手に対して、レフェリーの制止を聞かずに攻撃を続けたケースが、近年K-1では多発している。まさにこれまで繰り返されてきたK-1での反則暴走マッチの典型的シチュエーションである。すぐ頭に浮かぶケースとしては、昨年3月のサップvs中迫戦が全く同じケースであった。
これらのケースは全く構造的に同じである事が、わかっていただけるだろうか?
反則を犯したサップ(NFL:アメリカンフットボール,WCW:プロレス)にしろ、ボタ(IBF:ボクシング)にしろ、今回の曙(大相撲)にしろ、みな他の競技で一定の結果を残したアスリートばかりなのである。K-1参戦はそのキャリアを終えて、“第二の人生”として選ばれたものなのだ。彼らはこれまでの栄光を背負っている。言い換えれば、メジャーシーンでの活躍を背負って、観客に無様なところを見せられない“世間体”を背負っているわけだ。
加えて、対戦相手は彼らのパフォーマンスを有効に機能させるため、比較的軽めの体重の選手が選ばれてもいることも隠れた共通点だ。一発一発の攻撃が、軽い選手なら派手に映えるだろうというマッチメイク上の配慮があるわけだ。言葉は悪いが、どこかで噛ませ犬的な意味合いを持たせているのだろう。そして、K-1専業の選手はスリップダウンの際に、ルールに守られている気持ちがあるので、倒れても無防備なのだ。サップの相手の中迫にしろ、ボタの相手のアビディにしても、みなそうやって遮二無二突っかかってくる巨漢に、簡単に倒れて反則攻撃を浴びてしまうのだ。
要するに、
1、 興行上の要請で組まれた体重差の著しいマッチメイク
2、 過去に他競技で活躍した選手の気負い(と恐怖)
3、 K-1内部選手のスリップダウンでの無防備
この三つの構造があいまって、“暴走反則”のシチュエーションが生み出されているのである。
これは、他競技での人気者を転向させることで、その話題性や実力を安易に取り込もうとする限り、絶対になくなる事が無いであろう「構造的問題」なのである。
カップからこぼれたコーヒーを受け皿で啜るように、格闘技が他のメジャー競技のアスリートの引退後の“受け皿(カップソーサー)”であり続ける限り、きっとこうした問題は延々と続いていくだろう。したがって、僕はこの構造から引き起こされる事件を“カップソーサー暴走症候群”と呼ぼうと思う。
もしタイソンがK-1のリングに上がる事があるとしても、また同じような、“カップソーサー暴走症候群”が起きるのではないかという懸念が、僕の脳裏を離れない。