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かつての弟分との因縁マッチにも敗退 「豪腕ベルナルド失速の謎」(3ページ目)

恩師スティーブを後ろ足で砂を掛ける形でのジム離脱後、低迷を重ね、ついに弟分のノルキヤにも敗退。なぜベルナルドはここまで弱くなってしまったのか?

執筆者:井田 英登

■深まる恩師スティーブとの確執■

長年連れ添った育ての親、スティーブ・カラコダ氏と袂を別ったのもこの頃のこと。一般には「これ以上彼から学ぶ事が無い」という非情な発言があったとも伝えられる離別劇だが、実際のところ、ベルナルドにすれば進路問題の混乱を何とか断ち切りたいという気持ちがあったのではないだろうか。

そもそもボクシング転向を打ち出した2000年前後といえば、ベルナルドは女優との結婚が短期間で破綻、K1での成功を同じ南アフリカ出身の世界的ボクサーにマスコミで非難されるなど、散々な状況にあったという。急激に成功を手にした人間にはありがちな落とし穴ではあるが、それらのマイナス要因を吹き飛ばすために取ったボクシング路線がまた破綻。元々繊細で、何事にも考え込みやすい性格のベルナルドにすれば、もう何をやっていいのかわからない状況だったのだろう。

新しい環境で再スタートすることで、なんとか一連のトラブルを振り切ってしまおうしたのだろう。新しい練習場所に、ミルコ・クロコップの住むクロアチアを選んだのもなにやら象徴的ではある。元々ミルコの誘いで決断したというふれこみではあったが、ベルナルドの中には、新天地に身を移して成功を掴んだミルコにあやかりたいという気持ちがあったのかもしれない。だがその代償は大きかった。突貫攻撃を身上とするスティーブ流のスタイルを否定して、新しい戦い方を模索したベルナルドが選び取ったのは、カウンターファイトに徹したアウトボクシングスタイルだったからだ。

元々、打たれ弱い部分のあるベルナルドにとって、“打たれる前に打て”という先手必勝スタイルは、とりもなおさず「攻撃=防御」の側面をもった戦略でもあった。だが、自ら弾幕の防壁を捨てたベルナルドは、敵の出方をひたすら伺う、ただの打たれ弱い選手に成り下がってしまったのだ。典型的だったのは、昨年のGP出場査定マッチと言われたフィリオとのワンマッチだった。共にカウンタースタイルの二人はリングの上で消極的なお見合いを演じ、ブーイングの嵐のなか共倒れになってしまったのだ。明らかにスタイルチェンジは失敗だった。

一方、掌中の玉であるベルナルドを失ったスティーブは、なんとそのベルナルドの宿敵であったボタをボクシングから転向させるという荒業に出る。前述の“ベルナルドの成功を揶揄した世界的ボクサー”というのは、ほかならぬボタだったからだ。実際、それがベルナルドへのあてつけだったのかはわからない。しかし、スター選手を失ったトレーナーと、ボクシング界でのキャリアが終盤を迎え新しい働き場所を探していた大物ボクサーとの利害は一致した。その合体が、ベルナルドのスティーブに対する心証を悪化させたのは間違えない。

元々、純真で少年のような性格を持つベルナルドだが、逆に他人との諍いとなると折り合いの付け方も良くわからず一方的に内向したり、相手の悪意を拡大解釈したりしてしまう部分がある。こうした行き違いの重なりが、両者の関係を最悪のものにしてしまったのだろう。ベルナルドはスティーブの陰口を公然と語り、試合会場でスティーブに顔をあわせても一言も口を聞こうとしなくなったという。

いくら落ちぶれたとはいえ、かつてのスター選手の言葉にマスコミはそれなりに耳を傾ける。一方裏方でしかないスティーブは発言の機会を殆ど持たない。他意のない事情説明であれ、一方的な発言だけが一人歩きすれば、言われた側にすれば凶器だ。当然、2003年のトーナメントでベルナルドが上がってくるようなら、ボタと対決させることで、白黒をつけてやろうという気持ちもどこかにあったのかもしれない。

だが皮肉なことに、ボタは口汚くののしっていたはずのK-1で勝つ事が出来ず、ベルナルドもまた再浮上を果たすことなく低迷。両者の直接対決は夢に終わった。

そして、商品価値ゼロに近い状態まで落ちぶれたベルナルドに与えられたのは、遥か格下であったはずのノルキヤとの、屈辱的な同門対決であった。もうファイトで観客を湧かせることが出来なくなった彼にとって、身内のいがみ合いを売りにした因縁マッチしか残されては居なかったのである。

試合終了後、スティーブは自分の選手であるノルキヤにではなく、見る影もなく衰え果てたベルナルドを最初に抱き寄せた。涙を見せ、何事かを語りかけるスティーブの姿は、浪花節的世界観を強調するTVの演出が無くても、心を打つものがあった。成功と転落の迷路を踏み迷うかつての愛弟子を、放ってはおけなかったに違いない。

だが、ベルナルドは試合後「あの時僕はダウンのショックで頭が朦朧としていたんで、何を言っていたか判らない」と冷たく言い放ったという。やはり両者の間に刻まれた溝は修復されていないのだろうか。この言葉を聴く限り、スティーブの親心も、ベルナルドの冷え切った心を溶かすに至っていないように思える。メンタルな部分での上がり下がりが試合内容を左右するタイプの選手だけに、もうベルナルドの再浮上を望むのは難しいかもしれない。
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