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K-1 Maxにまで飛び火したボクシング対抗戦 「魔裟斗ついにボクサー戦へ」(3ページ目)

ボタ、タイソンに続いて「K-1vsボクシング」の構図は、ついにMaxに飛び火することになった。受けて立つ魔裟斗は本当に天才ひしめくこの階級で、世界の檜舞台で栄光をつかむことが出来るのだろうか。

執筆者:井田 英登

もそも、今回のMaxにボクサー参戦という話が勃発したのは、往年の名ボクサーシュガー・レイ・レナードがK-1に選手派遣を言い出したからだというが、果たしてそれ以外のボクシング筋のルートを確保できているのか? あるいはWBA、WBC、IBF、WBOといったメジャー筋にどれだけのネゴシエーションを実施したのだろうか。正直なところ、今回の発表を見る限り、その気配は薄い。ただ仕事にあぶれたフィリップスを釣り上げることに成功しただけのようにしか見えず、この先につながる展開はあまり見えない。そのあたりの先行き不透明感がある限り、このボクシング対抗戦路線にはまだまだ暗雲が立ち込めていると言わねばなるまい。実際、これだけ大事な「宣戦布告」の場であるというのに、谷川プロデューサーが記者会見に姿を見せなかったというのも、正直なところ不安材料となる。

唯一心強いのは、エース魔裟斗にはこの事態に対する強い自覚があるという事だ。

「はっきり言って過去の人と思ってる。僕は現役だから負けられない」と切って捨て、数十本の対戦相手候補のビデオの中からフィリップスを選んだ理由を「勝てる自信があるから」とまで言い切る。「1Rで蹴りの恐さをわからせて、なるべく早く倒して家に帰る」と、まるでこの試合が“消化試合”であるかのように言い放ったあたり、この戦いが来るべき全面戦争の序章でしかないという認識が彼の中にあるからだと思う。事実、パンチャーである魔裟斗が“蹴り”を武器にすると明言するあたりもその表れだろう。ただの“対ボクサー戦”なら、逆に自分のパンチの有効性を試すぐらいの気持ちでも構わないはずなのだから。これから始まる戦いが「潰しあい」であることを明確に認識した、このエースの発言だけがMax vsボクシング対抗戦の唯一の光明であると言えるのではないだろうか。
 
「できれば今回の大会もアメリカで放送してもらって、ラスベガスにでも乗り込んで、アメリカにも魔裟斗ありという形にしていきたい」と豪語する彼の言葉は、自分の標的がどこにあるか明快に理解したうえでのものだろう。

魔裟斗自身、かつて高校中退後の進路として最初に選んだのはキックではなく、プロボクサーの道であった。だがプロテスト直前までこぎつけながら、その受験直前にプレッシャーに耐えかね、失踪。プロ昇格を棒に振った経験があるのである。いかにも街の不良であったかのようなストーリーが一人歩きして喧伝される魔裟斗だが、実は当時から非常にナイーブで思慮深い少年であったという証言もある。そんな魔裟斗にとって、ボクシングという競技自体、過去の挫折経験の象徴であったのだ。巡りめぐってキック界の寵児となった今、そのボクシング界のトップファイターと闘う立場になったということも、なにやら運命的なものが感じられるではないか。要するに彼個人には、対ボクサー戦を闘っていくための目標やモチベーションがあるということなのだ。

逆に、曖昧な功名心しか見ていないK-1指導陣には、そうした強い動機がないのが危険だ。あだやおろそかな取り組みをすれば、魔裟斗だけがアメリカで成功し、K-1自体は日本のローカルスポーツとして置いていかれてしまう可能性だってある。より明快なビジョンの打ち出しと、団体としての毅然とした取り組みを見せない限り、このギャップは埋まらない気がする。
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