マネー・ボール「理論」の実際
では、マネー・ボールにおける当時のアスレチックスの戦略を、本から読みとれる限りで記していこう。
まず攻撃側では、打点などの「偶然性」に左右される指標を軽視し、もっぱら出塁率や長打率を重視する。出塁率という意味では、四球を選ぶことや選球眼に重きが置かれている。その反面、盗塁やバント・エンドランなどは、アウトを与えるリスクとリターンから、全くと言って考慮に入れられない。実際の試合では、これらの戦法は積極的に回避される。
また、守備力さえもあまり考慮されない。出塁+長打での得点に比べ、守備による失点は無視できる数値だというのがその理由だ。また、守備記録(エラー等)も、選手個々の守備能力を反映しているわけではないと切って捨てる(守備範囲の広い選手ほど、守備機会も多いがエラーも多いというケースなど)。
次に投手では、自分で防ぐことのできる与四球、奪三振、被本塁打などの指標は重要視されるが、被安打は殆ど省みられない。「ヒットは偶然の産物であり、防げない」という極端なセオリーによるものだ。
そしてこれらに基づいて、統計学的手法により導き出された指標により、アスレチックスは選手のパフォーマンスを評価する。結果的に、他球団の採用する従来評価とは大きく異なるが、アスレチックス戦略の中ではよく働く、コストパフォーマンスのいい選手を他球団やドラフトから得ることができたのだ。
「得点公式」の検証
ここで一つ、『マネー・ボール』の中にある公式を検証してみよう。チームのシーズンにおける予想得点だ。以下の簡単な公式で、あるチームが1シーズンにどれだけ得点できるかを予想するというものだ。
予想得点数=(安打数+四球数)×塁打数÷(打数+四球数)
この公式を、2005年のパ・リーグにあてはめてみよう。次のような結果になった。
【2005年パ・リーグシーズン予想得点と実際】→