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『マネー・ボール』を検証する(4ページ目)

2000年から4年連続地区優勝を成し遂げたオークランド・アスレチックス。そのチーム編成の中心人物、ビリー・ビーンGMを描いたベストセラー、『マネー・ボール』における野球戦略を検証する。

執筆者:コモエスタ 坂本

『マネー・ボール』が唯一絶対ではない


『マネー・ボール』で描かれている野球戦略の斬新さゆえに、この本を手に取った人の中にはしばしば「マネー・ボール信者」とも言うべき極端さに走ることがある。

それはベースボール(野球)というスポーツから、血や汗や涙や努力という人間臭い要素を一切廃するがごとくのデータ主義と言おうか、「唯データ論者」に傾きがちだということである。

もちろん、ベースボールのあらゆる結果はデータという数字になって眼前に現れるし、そのデータは確率論的にかなり正直なものである。例えば、シーズン当初に5割の打率を誇っていたバッターが、それを1年通して続けられることはない。長く試行回数を重ねていけば、その値がある範囲内に収束していくことは経験的に自明だ。

しかし、ベースボールを指導する側や観戦する側が、データにのみ依存するのは危険である。データは結果であり、あくまで過去の指標値であるからだ。

また、マネー・ボールで描かれた方法論が唯一絶対のものではない。アスレチックスの方法論は、いかにコストをかけずに最適化するかということに特化したものであり、やや皮肉な言い方をすれば、「プレーオフ止まり」のチームでしかなかったということだからだ。

『マネー・ボール』の先へ


マネー・ボールに限らず、一般的にあるデータ戦略や方法論(メソッド)が効果的に通用する期間は限定される。いわば賞味期限なるものが存在すると言っていいだろう。あるメソッドが広がれば、そのメソッドに対する先行者利益が減少するからだ。しかしもちろん、そこまでに確立されたセオリーが無に帰するのではなく、そのセオリーを元にして新たなセオリーが打ち立てられていくのが常である。

現在のメジャーリーグを巡る状況では、アスレチックスの方法論はやや失速気味だ。2005年、「スモール・ベースボール」を標榜したシカゴ・ホワイトソックスがワールドシリーズを制したのに対し、オークランド・アスレチックスは2年連続プレーオフ進出を逸した。

日本でもWBCで王代表監督が「スモール・ボール」を提示したように、マネー・ボール的な「動かない」野球ではなく、走塁や小技を含めた「小さな野球」に評価の機運が高まっている。また、走・守・肩・力・技などを総合的に評価した、いわゆる「5ツールプレーヤー」などという呼び方も流行っている。

一時期のメジャーリーグのホームラン合戦に見られたような、ビッグ・ボールからスモール・ボールへの回帰は一つのムーブメントとなっているが、ただ時代が逆行しているわけでもない。むしろ、今の現象はマネー・ボールでも提示されたメソッドを踏まえた上でのアプローチだと言うことができるだろう。

次の機会に、マネー・ボール理論の欠陥と、「スモール・ボール」ムーブメントへの移行について解説する予定だ。『マネー・ボール』の先にあるものは何か。時代は常に、前のメソッドを越えて先に進む。

<関連リンク>
『スモール・ベースボール』とは何か?
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