「僕はゴールゲッターなんかじゃない。」


アーセナルのヴェンゲル監督が「現役では世界最高のフォワード」と手放しで絶賛するティエリー・アンリは、しかしこんなセリフをしばしば口にしている。

2003年1月12日、アーセナルでの試合通算出場180試合で100得点という「超高速」記録をマーク。クラブ・代表戦合わせて、昨シーズンだけでも42得点を叩き出した怪物。この彼のどこが、ゴールゲッターではないと言うのか。


「僕はゴールすることばかりを考えている訳じゃない。だけど本物のゴールゲッターは、それしか考えないものさ。たとえチームが負けてもね。」
(Byアンリ、2003年1月14日付 L'EQUIPE紙より)


アンリにとってゴールとは「本能で決めるもの」。プレー中に考えるべきことは「チームメートを助けること」、そして「チームの勝利に貢献すること」なのだ。


「ゴールを決めるのが好きじゃない、と言ったら嘘になるよ。だって僕はフォワードなんだから。ゴールを決められなかった時は、試合後にすごくフラストレーションがたまる。だけどこれは『チームを助けることができなかった』という意味でのフラストレーションさ。一方で、大勝したのに自分がゴールできなかった時は、『ああ、今日は僕もゴールしたかったなあ。決定機を逃してしまった』とも思うんだ。チームの勝利と僕のゴール、そのどちらか一方だけでは満足できないんだよ。(両方を果たせなければ)つまりは僕がいいプレーを出来なかったということだからね。」
(Byアンリ、2003年2月号アーセナルオフィシャルマガジンより)


そしてこの言葉に、偽りはない。

高速スピードで敵方ディフェンダーを切り裂き、ゴールネットにボールを叩き込むというストライカーとしての仕事を十分に果たすと共に、サイドへの動きで味方選手が走りこむスペースを作り出し、柔らかいボールタッチでラストパスを供給する。実際、昨季のアンリのアシスト数は20とも23とも(メディアにより計算の仕方が違う)言われ、これはプレミアシップNo.1の数字である。得点王争いは24得点で惜しくも2位に終わったものの、ゴール+アシスト=得点に直接関わった回数はダントツ1位だ。

さらに彼の普段の態度も、巷でよく言われる「ゴールゲッター=エゴイスト」のイメージからはかけ離れたもの。常に礼儀正しく穏やかであり――時にクールすぎることもあるほどだが――、非常に謙虚。ヴェンゲル監督の話に熱心に耳を方向け、コメントの端々ではチームメイトに感謝の意を表することを決して忘れない。


昨シーズン、プレミアシップに所属する選手たちによる投票でシーズン最優秀選手に選ばれたアンリ。年末のヨーロッパ年間最優秀選手賞「バロン・ドール(Ballon d'or)」受賞の期待もいよいよ高まる。彼が現役で世界最高のフォワードから、「現役で世界最高のフットボーラー」へと登りつめる日も、そう遠くはないだろう。サバンナを駆け抜ける野生動物のように恵まれた肢体と、サッカーや人生に対する「インテリジェンス」な姿勢を持ち合わせた、そんなパーフェクト・フットボーラーに。


<プロフィール>

ティエリー・アンリ(Thierry Henry)
1977年8月17日、パリ生まれ
ポジション:フォワード

INF(フランス国立トレーニングセンター)を経て、1990年にフランス1部リーグのASモナコと契約
1994年8月31日 ASモナコ1軍デビュー
1988年12月~1999年7月 イタリア・セリエAのユヴェントス所属
1999年8月~現在 イングランド・プレミアシップのアーセナル所属

<クラブでの主な戦績>
1997年 フランス国内チャンピオン(ASモナコ)
2002年 プレミアシップ&FAカップ優勝(アーセナル)、プレミアシップ得点王(24ゴール)
2003年 FAカップ優勝(アーセナル)

<フランス代表歴>
1996年 欧州ユース選手権優勝
1997年10月11日 フランスA代表初出場
1998年 フランスW杯優勝、3得点
2000年 ヨーロッパ選手権優勝、3得点
2003年 コンフェデレーションズカップ優勝、4得点





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