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20世紀最大の問題児!? M・デュシャン(3ページ目)

「巨匠で見るアート」シリーズ第2回。「レディ・メイド」など従来では考えられなかった様々な作品で同時代の人々を驚かせた「現代アートの父」マルセル・デュシャンをご紹介します。

執筆者:橋本 誠

目に見えないものを描いた《大ガラス》

「レディ・メイド」の作品に取り組む一方で、8年間にも渡って、デュシャンが制作しようとしていた大作がありました。《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》という長くややこしいタイトルがつけられた作品で、通称《大ガラス》とも呼ばれている巨大なガラス製の立体です。

2004年に国立国際美術館で開催された<マルセル・デュシャンと20世紀美術>展《大ガラス》(レプリカ)紹介ページのリンク>>こちらから

《大ガラス》は縦に2枚並べられたガラスに様々な造形が描かれた作品で、上側が「花嫁」、下側が「独身者たち」を指していると言われています。一見すると描かれているものが何なのかほとんど分からないのですが、1934年に出版された《グリーン・ボックス》という、《大ガラス》についてのデュシャンの構想メモやデッサン、写真などの資料を収めた作品を見ると、各部位に下記のような名称がつけられていることが分かります。

「花嫁」の部分
  • 花嫁
     弱いシリンダーのあるモーター、愛のガソリン貯蔵庫、欲望のマグネット発電機 など
  • 高所の掲示、銀河
     レターボックス、アルファベット、換気弁、網目
「独身者」の部分
  • 九つの雄の鋳型、制服とお仕着せの墓場、独裁者機械
     司祭、憲兵、警官、カフェのドアボーイ など
  • 水車のある滑溝
     水車、滑溝、四輪車
  • 毛細管
  • 濾過器、パラソル
  • チョコレート磨砕器
     銃剣、飾りリボン、ローラー、ルイ15世の台座

  • 眼科医の証人、検眼図
さらに未完成の部分があったり、描かれたものの配置に「照明用ガスの軌跡」、「花嫁の命令」などといった方向性が記してあったりと、複雑な作品です。もしこのようなヒントがなければ、理解することはほとんどできないでしょう。

《グリーン・ボックス》により明らかになるのは、目に見える物を描いてきた従来の絵画とは全く異なり、《大ガラス》には観念的なもの、思考や言語によって理解されるものが描かれているということです。キャンバスではなく支持体にガラスを選び、目に見えないものを描くことで、絵画そのもののあり方を問い直しているかのようです。

作品は1915年に制作が開始され、1923年に未完成のまま制作が放棄されました。わざと完成させなかったとも言われています。さらに後の展覧会に出品した際に、運搬中ひび割れを起こしてしまいますが、デュシャンはそれを喜び破損を生かしたまま再生させたそうです。

《大ガラス》にはフィラデルフィア美術館に所蔵されているオリジナルのほか、4点のレプリカが存在しています。日本にも瀧口修造と東野芳明の監修により1980年に完成したものがあり、東京大学教養学部美術博物館で見ることができます。(※)デュシャンは、オリジナルと同様にこれらも「作品」として認めています。彼にとって重要なのは、「レディ・メイド」と同様に出来上がった作品そのもののオリジナリティではなく、それらを支える思想だったのです。

※特別展・貸出中などにより見れないときもありますので、詳細は東京大学教養学部美術博物館にご確認ください。

最後のページでは、死後に発表された遺作に迫ります!
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