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20世紀最大の問題児!? M・デュシャン(2ページ目)

「巨匠で見るアート」シリーズ第2回。「レディ・メイド」など従来では考えられなかった様々な作品で同時代の人々を驚かせた「現代アートの父」マルセル・デュシャンをご紹介します。

執筆者:橋本 誠

既製品を用いた「レディ・メイド」作品

『自転車の車輪』
木製の台座に自転車の車輪を逆さまにして取り付けた「レディ・メイド」作品
《階段を降りる裸体 No.2》で大きな反響を呼び、評価も得たデュシャンですが、その後、絵画という表現形式そのものに対する興味を失い、筆を取ることはほとんどなくなってしまいました。

そんな彼が作品に使い始めたのが、既製の工業製品(レディ・メイド)でした。始めに制作したのは《自転車の車輪》(1913)で、自転車の車輪を逆さまにして木製の台座に取り付けたものでした。翌年に発表したのは《瓶乾燥器》(1914)。こちらはなんと、買ってきた瓶乾燥器に署名と短い文を書き込んだだけの作品でした。

今でこそ、このような既製品を用いた表現は珍しくありませんが、それを初めて行ったのがデュシャンだったのです。既に存在している何かを「選ぶ」こと、そしてそれに「名づける」こと、そういった「行為」そのものが芸術を成立させるという考えに基づき、それまで誰も考えなかった手法をとったのです。

「便器」を使った挑発的な作品

『Duchamp』
既製の男性用便器にサインを書き入れただけの「作品」には、挑発的なメッセージがこめられた
「レディ・メイド」と呼ばれたデュシャンの一連の作品で、最も有名なのが1917年にニューヨークで発表された《泉》という作品です。

彼はこの年、ニューヨーク独立芸術家協会が無審査を掲げて主催した展覧会の実行委員長を務めており、作品を匿名で出品することにしました。磁器製の男性用小便器に、自分の名前ではなく「R.MUTT 1917」とサインを書き入れて展覧会に送りつけました。

サインの「R」は馬鹿者という意味のある「リチャード」の略で、「MUTT」は便器の製作会社「Mott Works」をもじったものなので、これは「馬鹿者のマット」と読み替えることができます。すなわち、既成の概念や手法を踏襲しただけの作品をつくり、それにサインをするような行為は愚かであり、便器のような既製品に「馬鹿者のわたし」とサインをするようなものだ、といったような意味が含まれていると言えます。デュシャンはただ名前を隠したのではなく、そこに挑発的なメッセージを込めたのです。

また、タイトルの「泉」は、便器の見方に異なる視点を与えているだけではなく、有名なドミニク・アングル(1780-1867)の作品《泉》(1856)を引用しているとも言われています。しかし、同じ「泉」でも全く異なる趣の作品ですから、アングルにとってはいい迷惑でしょう。これもやはり、伝統的な価値観を挑発する仕掛けだったのです。

作品の出品は拒否され、デュシャンはそれに抗議の意を唱えて実行委員の座を降りました。そして、自身の発行していた雑誌『ザ・ブラインド・マン』に、協会の対応を非難した記事を執筆しました。事件は自作自演のスキャンダルとなったのです。

以後も、彼はレディ・メイド作品をいくつも手がけました。モナ・リザの絵はがきに口ひげと顎ひげをいたずら書きした作品もそのひとつとして非常に有名です。

次のページでは、未完成の大作《大ガラス》に迫ります!
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