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高名な評論家が変死した。彼の美術論に隠された犯人の意外な動機とは? 絵画の世界を舞台に描く〈神泉寺瞬一郎〉シリーズ第1弾。 |
2008年に刊行された深水黎一郎の第2長編
『エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ』は――デビュー作とは趣の異なる――オーソドックスな謎解きを軸にした物語だ。銀座の画廊経営者にして美術評論家でもある暁宏之が、密室の中で変死体となって発見された。高価な絵画は手付かずで残されており、強盗の仕業ではないことは明らかだった。警視庁捜査一課の海埜刑事とその甥のフリーター・神泉寺瞬一郎は、被害者の記した美術書『呪われた芸術家たち』を手掛かりに捜査を進めていく。卓越した推理力と教養の持ち主・神泉寺の辿り着いた真相とは……? エコール・ド・パリにまつわる蘊蓄を盛り込み、芸術論と本格ミステリーを融合させた――と書くと難解に思われそうだが、変人たちの活躍するストーリーはユーモラスなもので、観念的なアイデアを平易に処理しているのも好ましい。絵画をモチーフにした本格ミステリーの快作である。
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オペラの舞台で"本物の殺人"が発生し、続いて演出家が惨殺された。真犯人の正体は? 被害者の遺したメッセージの真意とは? 〈神泉寺瞬一郎〉シリーズ第2弾。 |
著者の最新作
『トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ』では、オペラの世界がモチーフに選ばれている。プッチーニ作曲のオペラ『トスカ』の上演中、出演者の一人・磯部太が首を刺されて死亡した。小道具のナイフが本物と入れ替わっていたのだ。海埜刑事と神泉寺瞬一郎が捜査を手掛けるものの、その矢先、斬新な舞台を予告していた演出家・郷田薫が自宅で殺されてしまう。その死体は不自然に両手を交差させていた……。オペラの蘊蓄や教養を噛み砕いて説明しつつ、それを本格ミステリーのトリックに結び付け、正統派の謎解きを構築する――そんな著者のテクニックは早くも職人レベルに達しつつある。どんな芸術を題材にするのかも含めて、今後の展開が大いに楽しみなシリーズなのである。
【関連サイト】
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深水黎一郎さん新作『エコール・ド・パリ殺人事件』…深水黎一郎が講談社メールマガジンに寄せたコメント(
文芸同志会通信公式サイトに転載されたもの)です。