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本格ホラーミステリーの旗手・三津田信三(2ページ目)

怪奇小説と謎解きを融合させた作風で知られる三津田信三。その足跡に迫ります。

執筆者:福井 健太

本格ミステリーと怪奇小説のハイブリッド
〈刀城言哉シリーズ〉

『厭魅の如き憑くもの』
旧家が対立する村で死体を案山子に装う連続殺人が発生した。怪奇小説家・刀城言耶はこの謎を解くことが出来るのか?
三津田晋三は約1ダースの長編を上梓しているが、代表作が〈刀城言耶シリーズ〉であることに異論は出ないだろう。2006年の『厭魅の如き憑くもの』で初登場した刀城言耶は"東城雅哉"の筆名を持つ怪奇小説家であり、日本各地を旅しながら怪異譚を収集している。"神隠し村""案山子村""憑き物村"などの別名を持つ神々櫛村では、憑き物筋の"黒の家"と非憑き物筋の"白の家"が対立を続けていた。そんな村を訪れた刀城は異様な変死――山伏が案山子のような姿で殺された事件に遭遇するが、これは連続殺人の幕開けに過ぎなかった。因習に囚われた村の濃密なムード、不可能犯罪のトリック、大胆な真相などを兼ね備えた怪奇ミステリーの秀作である。

シリーズ第2作『凶鳥の如き忌むもの』では、刀城は瀬戸内にある鳥坏島の"鳥人の儀"を取材し、密室から消えた巫女の謎に挑むことになる。第3作『首無の如き祟るもの』は奥多摩の媛首村で起きた"連続首切り殺人"の物語。先祖の呪いで男子が早世するとされる秘守家では、10年ごとに子供の無事を願って"三々夜参り"が行われる。一族の長である一守家の双子――長寿郎と妃女子の十三夜参りの夜、密室状態の媛首山から妃女子が消失し、井戸の底から死体となって発見された。そして10年後、長寿郎の嫁を選ぶ"婚舎の集い"の夜に新たな殺人事件が発生する。大胆にして異様なトリックは現実的なものではないが、閉鎖的な村がディープに描かれているからこそ、その不気味さはむしろ切迫感をもって読者に迫ってくる。『このミステリーがすごい!』の第5位および『本格ミステリーベスト10』の第2位に選ばれた本作は、現時点での著者の代表作にほかならない。

待望のシリーズ第4弾
『山魔の如き嗤うもの』

『山魔の如き嗤うもの』
密室状態の屋敷から消えた一家、童歌の見立て殺人、不気味な声を上げる山魔。幾重もの逆転が仕組まれたトリッキーな怪奇ミステリーだ。
そんな〈刀城言耶シリーズ〉の第4作が『山魔の如き嗤うもの』である。山中で不気味な叫び声を聞いた郷木靖美は、怪しげな家族の住む屋敷に逃げ込んだ。そこで一夜を過ごした靖美は、内側から施錠されているにも関わらず、家族全員が姿を消していることに気付く。その顛末を(編集者に渡された手記で)読んだ刀城言耶は現地へ向かい、奇妙な"六地蔵"の童歌にまつわる連続殺人に巻き込まれていく。人間消失や見立て殺人といった道具立てはいかにも探偵小説的だが、著者は伏線とロジックを踏まえたストレートな謎解きを構築しながらも、超自然的な存在を排除することなく、両者を作中に混在させている。そんな構成が"すれた読者"にとっても刺激的なのは、三津田作品――とりわけ〈刀城言耶シリーズ〉の最大の持ち味に違いない。高密度な本格ミステリーの愛好家、怪奇小説ファン、型通りのミステリーに飽きた人――いずれの層にもお勧めの傑作シリーズなのである。

【関連サイト】
ミステリー・リーグ&ヴィンテージ・ミステリ…〈刀城言耶シリーズ〉の3作を刊行している原書房。その公式サイトに設置されたミステリーコーナーです。
【編集部おすすめの購入サイト】
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