ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

古本屋探偵の帰還

ミステリーの愛読者には古書の世界に関心がある人も多いはず。そんな方には古書店主が活躍する〈クリフ・ジェーンウェイ〉シリーズがお勧めです。

執筆者:福井 健太

ミステリー界の話題を独占した
ジョン・ダニングとは

『死の蔵書』
投げ売り本から値打ちモノを探し出す古本掘り出し屋が殺された。その蔵書に莫大な価値があったため、事態は意外な展開を見せることに……。
ミステリーマニアと古書の縁は深い。絶版本を探す必要のあるマニアにとって、古書は極めて身近な存在といえるだろう。ジョン・ダニングの〈クリフ・ジェーンウェイ〉シリーズは、そんな古書業界を背景にした異色のミステリー。読者の関心を巧みに拾い上げ、サスペンス小説に織り込んだキャッチーな作品群なのである。

ジョン・ダニングは1942年にニューヨークで生まれた。デンバーの新聞社に数年間勤めた後、職を転々としながら小説を発表し、1981年以降は――執筆活動を休止して――稀覯本専門の古書店を経営。そこで得た経験を設定に生かし、1992年に『死の蔵書』で作家業に復帰してからは、数年に1作のペースで長編を書き続けている。ここでは〈クリフ〉シリーズを順に見ていこう。

刑事から古書店主に転身した
ユニークな名探偵

『幻の特装本』
刑事から古書店主に転職したクリフは存在するはずがない本の行方を追う。その謎はかつての連続殺人に結び付いていた。
記念すべき第1作『死の蔵書』は『このミステリーがすごい!』(1998年度版)の第1位に選ばれた傑作である。安価な稀覯本を見つけ出す古本掘り出し屋が殺され、稀覯本のコレクターでもあるクリフ刑事が捜査を命じられた。貧しいはずの被害者が高価な蔵書を揃えていたことから、クリフは古書にまつわる陰謀の存在を察知する。古書マニアの刑事、古書業界ならではの会話、最後に明かされるオチなど、読書好きへのサービスが盛り込まれた野心作なのだ。

第2作『幻の特装本』の冒頭において、読者はクリフの思いがけない転身を知らされる。クリフは警察を辞めて古書店を経営していた。そんな彼のもとに舞い込んだ依頼は、存在するはずのない本――エドガー・アラン・ポー著『大鴉』の限定版を盗んだ女を連れ戻すというものだった。興味を惹かれて調査を進めるうちに、クリフは古い連続殺人との関連性に気付かされる。2つの謎はいかに繋がっているのだろうか?

続きは次のページで御紹介します。
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