第4回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。著者の海堂尊(かいどう・たける)さんは、1961年千葉県生まれ。現在は勤務医。 |
ストーリー&バチスタ手術とは?
<ストーリー>東城大学医学部付属病院では、アメリカ帰りの天才外科医・桐生を中心に、バチスタ手術の専門チーム「チーム・バチスタ」を作り、次々に成功を収めていました。ところが、3度続けて術中死が発生。次の手術は、海外からのゲリラ少年兵士が患者ということもあり、マスコミの注目を集めています。そこで内部調査の役目を押し付けられたのが、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来責任者・田口。手術中に患者の死が続くのは単なる偶然か、医療ミスか。それともまったく別の原因があるのか。田口は聞き取り調査をしますが、謎は深まるばかり。そこに厚生労働省の変人役人・白鳥が登場して……。
<バチスタ手術とは?>
バチスタ手術は、学術的な正式名称を「左心室縮小形成術」という。一般的には、正式名称より創始者R・バチスタ博士の名を冠した俗称の方が通りがよい。拡張型心筋症に対する手術術式である。肥大した心臓を切り取り小さく作り直すという、単純な発想による大胆な手術。(本書より)
ハードボイルドのつもりが爆笑ミステリーと言われて
ガイド:『チーム・バチスタの栄光』の着想のきっかけは何だったのでしょう?海堂さん:まず思いついたのはトリックです。そのトリックが使えるのは手術室しかない。すると登場人物も決まりますよね? 次に、殺人が行われるところと、真相が解明されるところが、ぼんやりとできて。そうしたら、事件を調査する人が必要になるわけです。あとは冒頭の調査役の会話の場面と、終章の桜の風景が浮かびました。トリックと、事件と、最初と最後のシーンが決まったので、書けるかなという感じで。
ガイド:調査役の田口が、大学病院の内側をシニカルな口調で語る冒頭から笑えます。
海堂さん:僕はハードボイルドのつもりだったので、「爆笑しました」という感想をいただいて驚きました(笑)。テキスト自体は真面目なんですよ。ふざけた文章は1つもないのに笑っていただけるなら、それもいいかなという気がしています。笑わせる意図はありませんでしたけど、“ずれ”を意識して書いた部分はありますから。でも「えへへ」くらいの笑いならともかく、どうして爆笑されるのか、自分ではわからないですね。
ガイド:真面目に書いてあるから余計に可笑しいんだと思います。はじめのほうに出てくる、リスクマネジメント委員長の独特の言い回しとか面白いですよね。〈この案件は果たして当委員会で対応することが要求されるべき案件であるかどうか、そこのところについて、どのようにお考えになるのか、さまざまな意見を総合的に勘案して、可及的速やかに対応をはかるべきかどうかを、直ちに早急に検討に入るべきかどうか〉という具合に、えんえんと内容のないことを言って会議を長びかせる。「こういう人、いるなあ」と(笑)。
海堂さん:そういう人にかぎって偉くなって、議長をやってたりするんですよね(笑)。会議をやってると「それは結局“駄目だ”ということでしょ!」と、言いたくなることってあるじゃないですか。そこは僕の感情が入っていますね。もちろん誇張はしていますが。
ガイド:調査役の田口はあからさまなヒエラルキーが存在する大学病院という組織の中で権力争いとは距離を置いて、"愚痴外来"と呼ばれる、不定愁訴の患者を診る部屋を勝手につくってしまう。こういうキャラクターに設定したのはなぜですか?
海堂さん:とにかく聞き役にしようと思ったんですよね。あとは医学知識について説明するときに、外科手術にあまり詳しくない、一般の人に近い専門家のほうがわかりやすくなるというのがあったのかもしれません。書いているときは考えていませんでしたけど。組織の中で浮いているのは、田口はやる気がないからでしょうね。権力のピラミッドって、上に行けば行くほど競争はタイトになるけど、そこで勝っても得るものは少ない。コストパフォーマンスが悪いんですよ。上を目指してもむなしくなるだけなので、最初から下りているんだと思います。
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