現実に立脚した奇想、人情味あふれる物語
<DATA>タイトル:『プリンセス・トヨトミ』出版社:文藝春秋著者:万城目学価格:1,650円(税込) |
しかし本書には、ほとんどの人には見えない鬼やしゃべる鹿のような、幻想的な生き物は登場しない。豊臣家の繁栄と滅亡をめぐる史実、庶民が主役の文化、近代建築が多く残る街並みを背景に、会計検査院という実在する組織の仕事や、商店街の人々の暮らしをリアルに描きながら、見たことのない世界をつくりあげている。しかも、危機に陥った大阪を救うのは親子の絆。
あくまでも地に足がついていて、人情が奇跡を起こす。それが万城目学が考える大阪らしさなのだろう。中学生から老人まで、さまざまな世代の想いも描かれていて、一気に読者層を広げそうな長編だ。
※サムネイルの大阪城の画像Photo by (c)Copro