〈あるべき物語〉をなぞって生きようとする愚
<DATA>タイトル:『英雄の書 下』出版社:毎日新聞社著者:宮部みゆき価格:1,680円(税込) |
“賢者”によれば、“英雄”の写本にふれた者がすべて“黄衣の王”に取り憑かれるわけではないという。鍵になるのは怒り。大樹が何に怒っていたのか知ったとき、友理子は衝撃を受ける。
(2)友理子は兄を取り戻せるのか?
“英雄”に取り込まれてしまった兄を探して、友理子は“印を戴く者(オルキャスト)”となって、別の物語『ヘイトランド年代記』の世界へ冒険の旅に出る。ファンタジーではお馴染みの展開だが、随所にミステリー作家らしいサプライズも仕掛けられている。
(3)〈あるべき物語〉をなぞって生きようとする愚
作品全体からひしひしと伝わってくるのは、著者が現実の社会に感じているであろう深い憂い。終盤にこんなセリフがある。
時に人間は、“輪”を循環する物語のなかから、己の目に眩しく映るものを選び取り、その物語を先に立てて、それをなぞって生きようとする愚に陥る。〈あるべき物語〉を真似ようとするのだよ
〈あるべき物語〉とは、例えば正義、あるいは成功。本書を読むと、自分は〈あるべき物語〉をなぞろうとしていないか、考えずにはいられない。
『英雄の書』は、稀代の物語作家が人間の物語るという行為について問いかけた本なのである。
ちなみに作中の“黄衣の王”の由来になった暗黒神話とは?