第139回芥川賞の候補作、楊逸「時が滲む朝」(文學界6月号)、 羽田圭介「走ル」(文藝春号)、磯崎憲一郎「眼と太陽」(文藝夏号) 、木村紅美「月食の日」をご紹介!

日中青春文学対決!?楊逸「時が滲む朝」と羽田圭介「走ル」

走ル
<DATA>タイトル:『走ル』出版社:河出書房著者:羽田圭介価格:1,260円(税込)
まず、今回の芥川賞候補作で、なんといっても話題なのは楊逸(ヤン・イー)「時が滲む朝」だ。著者は「ワンちゃん」でデビューした在日中国人作家で、2度目のノミネート。

「時が滲む朝」の主人公は、梁浩遠(リャン・ハウ・ユェン)。中国西北部の貧しい地域で生まれた青年だ。彼は高校時代の親友の謝志強(シェー・ツェー・チャン)と、同じ大学に入学し、いずれ高校の教師になって、農村の子どもを国のエリートに育てようと誓い合う。

念願かなって、秦都大学に入学。浩遠と志強は相変わらず仲良く、未来を夢見て勉強に励んでいたが――。1989年、天安門事件が起こり、直接は巻き込まれなかったものの、ふたりの運命は大きく変わってしまう。

天安門事件から香港返還、北京五輪の招致が話題になった2000年までを、日本に渡ってからも理想を捨てられない浩遠の視点で描く。彼の青春を象徴する曲が尾崎豊の「I Love You」というところも興味深い。

「走ル」の羽田圭介も、華やかなデビューを飾った作家だ。『黒冷水』で文藝賞を受賞した当時、なんと17歳。今年大学を卒業し、一般企業に勤めながら執筆活動を続けている。今回の作品は、シンプルなロード・ノヴェルだ。

夏休み明けの試験が終わり、午前中で下校したある日。高校生の「僕」は、物置で緑のビアンキを発掘する。その自転車で学校に行った「僕」は、そのまま授業をさぼって北へ。八王子、皇居、秋葉原、埼玉、栃木、福島、山形、秋田、青森、そして岩手へ。「僕」はひたすら走る。付き合っている彼女やちょっと気になる幼なじみと携帯メールをやりとりしながら。

びっくりするほど何も起こらず、出会いもなく、似たような風景が続く旅。これが現代日本の若者にとっての“リアル”なのかもしれない。

次ページでは磯崎憲一郎「眼と太陽」と木村紅美「月食の日」を紹介。