和田竜『のぼうの城』
<DATA>タイトル:『のぼうの城』出版社:小学館著者:和田竜価格:1,575円(税込) |
時は戦国時代。秀吉の大軍にわずか10分の1の兵力で立ち向かった武州忍城(ぶしゅうおしじょう)。当主の従兄弟で父の死後、城代になった成田長親、通称“のぼう様”の活躍を描く。
“のぼう”は“でくのぼう”からとられている。体は大きいが、およそ武士らしい勇猛さはなく、他の家臣が真剣に城の将来を話し合っている時に頓珍漢なことをいう。農作業を手伝うのが好きなのだが、農民たちには何もしてくれないほうがマシと思われているほど不器用。そんなのぼう様が、名将・石田三成をぎゃふんといわせる――。文章はやや説明的なところが目立つが、愚者が賢者に転ずる痛快さが多くの読者に受け入れられたのだろう。
武力や知力に優れている者より、みんなに愛される人気者が勝つという意味でも現代的。おバカキャラでブレイクしたアイドルグループ「羞恥心」を思い出した。
三崎亜記『鼓笛隊の襲来』
<DATA>タイトル:『鼓笛隊の襲来』出版社:光文社著者:三崎亜記価格:1,470円(税込) |
まずツカミが巧い。
赤道上に戦後最大規模の鼓笛隊が発生した。(鼓笛隊の襲来)
由香里が覆面を被って出社した。(覆面社員)
高橋の携帯電話が不通になり、二週間が過ぎた。(「欠陥」住宅)
「何が起こったの?」と読者を引きつけるインパクトがあるのだ。
表題作のなかでは、自然発生して人々を連れて行ってしまう鼓笛隊が、災害のように見なされている。普通の会社員に覆面を被らせたり、ゾウさんすべり台のゾウを生きているゾウにしたり、よく知っているものを異化して物語世界をつくる。そんな著者のデビュー作以来の得意技が発揮された1冊。
また、本書には行方不明の恋人や子供時代の記憶など、あらかじめ失われたものがしばしば登場する。欠落感を抱えたまま生きる人間の孤独を描いた作品集でもあるのだ。
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