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雨音を聞きながら読みたい短編小説(3ページ目)

雨の日は、家でゆっくり読書がオススメです。今回はガイドが別人になりきって、架空の読書日記を書いてみました。雨音を聞きながら読みたい短編小説をどうぞ。

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

話題の本ガイド

ウィリアム・トレヴァー「雨上がり」

聖母の贈り物 (短篇小説の快楽)
<DATA>タイトル:『聖母の贈り物』出版社:国書刊行会著者:ウィリアム・トレヴァー価格:2,520円(税込)
もう一つ、恋と雨にまつわる短編を思い出した。『聖母の贈り物』(国書刊行会)に収録されている「雨上がり」だ。著者は三島よりも三つ年下のイングランド系アイルランド人作家、ウィリアム・トレヴァー。

主人公のハリエットは、恋人と別れたばかり。本来なら彼とエーゲ海へバカンスに行くはずだった二週間がぽっかりと空いてしまい、子供の頃、両親とよく来たイタリアのホテルに滞在する。せっかく旅に出たのに、恋によって負った傷の痛みは激しくなるばかりだ。十二日目の朝、散歩に出かけたハリエットが教会に入ろうとすると雨が降りだす。

その教会には、「受胎告知」のフレスコ画があった。マリアのもとに、天使が舞い降りた場面を描いたものだ。教会を見学したあと外に出ると、雨がやんでいた。雨に洗われた風景を眺めながら歩いていたハリエットは、「受胎告知」の絵に関して、ある発見をする。そしてわたしはいままでの恋愛でいろんなごまかしをしてきたと気づく。悲しみに沈んでいた主人公が後戻りの旅をやめると決めた瞬間が、雨上がりの空と重なってすがすがしい。

小説のなかでは雨がやんだが、現実の雨音は大きくなる一方だ。いま、インターフォンが鳴った。この部屋にも、天使は舞い降りるだろうか。


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