三島由紀夫「雨のなかの噴水」

真夏の死―自選短編集 (新潮文庫)
<DATA>タイトル:『真夏の死』出版社:新潮社著者:三島由紀夫価格:500円(税込)
「雨降る夜に」の〈僕〉は彼女にどんな本を貸したのだろう? 自分なら、せっかく雨の日だけ開館する図書館なのだから、雨をモチーフにした物語がいい。長編だと次に会える日が先になってしまうから、すぐに読める短編にしよう。

ふと三島由紀夫の自薦短編集『真夏の死』(新潮社)に目がとまる。最後におさめられた「雨のなかの噴水」。恋愛小説にしてはシニカルだが、本好きの彼女なら面白がってくれるかもしれない。

少年は重たい砂袋のような、この泣きやまない少女を引きずって、雨のなかを歩くのにくたびれた。

という一文で始まる。少年の名は明男。実に傲慢でいやな男だ。女に別れよう!というセリフを放ってみたい。そのためだけに、少女――雅子を愛したふりをして、口説き、一緒に寝ることまでするのだから。明男は丸ビルの喫茶店で念願の一言をいい、涙を流す雅子をじっと眺めている自分の心の薄荷のような涼しさにうっとりする。ところが雅子が泣きやまないので、明男は泣き袋(雅子のことだ!)の捨て場所を探して公園の噴水に向かう。

一見、女の子にすすめる小説じゃないような感じだが、ラストシーンで明男がぎゃふんといわされるので痛快だ。天から降る雨と、下から突き上げてくる噴水の対比も見事。

次ページではもう一つ、雨と恋の話を。