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酒田に伝説の映画館と料理店をつくった男(3ページ目)

こんなすごい人がいたんだ! という驚きが味わえる話題の評伝『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』をご紹介。

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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日本中から食通の有名人が訪れたフランス料理店「ル・ポットフー」とは?

食の王様 (グルメ文庫)
<DATA>タイトル:『食の王様』出版社:角川春樹事務所著者:開高健価格:693円(税込)
映画館経営を成功させた久一がなぜレストランの支配人になるのか? ある女性との恋が深くかかわっている。そのときの紆余曲折も読みごたえがあるのだが、久一の人生が絶頂期を迎えるのは、なんといっても1973年にフランス料理店「ル・ポットフー」がオープンしてからだ。

「ル・ポットフー」はデパートの中のレストラン。客層にあわせて値段も庶民的だ。それなのに、地元産の最高品質の食材を使った、本格的なフレンチを提供する。当然、日に日に評判が高まっていく。ホテルに移転してからは、日本中の食通が訪れるようになる。土門拳、山口瞳、古今志ん朝――錚々たる名前が並ぶ。中でも印象的なのが、開高健のエピソードだ。

世界を股にかけた食通であり、釣り好きで知られる開高。酒田を訪れた目的も釣りだった。ところが、釣果はゼロ。最も不機嫌な状態で、「ル・ポットフー」に連れて来られる。むっつりと黙った開高の表情が、料理を口にした途端に一変。一皿一皿の料理を食べるたびに生き生きと饒舌になっていく様子が、鮮やかに描かれている。おいしい食べ物は、人を幸せな気持ちにするのだ。

当時のメニューや、開高に紹介された丸谷才一が「そば粉のクレープとキャビアの前菜」を食べたときの評(文藝春秋『食通知ったかぶり』)を読むと、ほんとにおいしそうだなあと思う。

たちまち、出羽のひなびた穀物の味とさながら凝脂のようなカスピ海の魚卵とは、わたしの口中に贅美を尽くした別天地を合成する。

佐藤久一はなぜ忘れ去られたのか?

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