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酒田に伝説の映画館と料理店をつくった男(4ページ目)

こんなすごい人がいたんだ! という驚きが味わえる話題の評伝『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』をご紹介。

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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佐藤久一はなぜ忘れ去られたのか?

世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか
<DATA>タイトル:『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』出版社:講談社著者:岡田芳郎価格:1,785円(税込)
「ル・ポットフー」の料理が人々を感動させたのは、シェフの腕もさることながら、久一の目利きに拠るところも大きい。特に魚の仕入れに天才的な眼力を発揮した。彼は

「生きのいい魚は草の香りがする」

といったそうだ。詩的で美しい表現である。万事にわたって貫かれる美意識と最高の食材に対する執着。これが「ル・ポットフー」の栄華と凋落、両方の原因になった。1983年、ついに「ル・ポットフー」は閉店する。とはいえ、酒田の文化を豊かにした功労者として、佐藤久一の名が残っていてもおかしくない。どうして忘れ去られたのだろうか? プロローグに描かれた酒田大火が少なからぬ影響を与えている。

「ル・ポットフー」をやめてからの久一は何もかもうまくいかない。本書の冒頭にはさみこまれた、大きな魚を持った久一の笑顔。晩年のだめさ加減を知ってから見直すと、とても切ない。しかし、それでも読後には、久一は魅力的な人だという印象が残る。本書のあとがきは、こんな文章でしめくくられている。

「久ちゃん、どうやら私の中にあなたが棲みつき始めた」

著者は、読者の中にも久一を棲みつかせたのではないだろうか。

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