楽しい会話は一番強い絆田辺聖子『残花亭日暦』
<DATA>タイトル:『残花亭日暦』出版社:角川書店著者:田辺聖子価格:500円(税込) |
田辺さんが夫の川野純夫さんと出会ったのは、川野さんの前妻で作家の彰子さんの追悼文を寄せたのがきっかけ。2人はすっかり意気投合し、何時間も話し込むようになりました。〈いっそ、結婚しよう、そのほうがおしゃべりしやすい〉というわけで田辺さんが38歳のときに結婚。2人は一緒に酒を飲み、しゃべり、好きな歌を唄って仲むつまじく暮らしてきたのです。ところが20年以上前に病に倒れ車椅子生活になっていた川野さんに、新たな病が見つかり……。
川野さんはイヤなことはしない、自分のキモチに忠実な人。ワガママで介護する田辺さんや秘書のミドちゃんを困らせますが、気の利いた冗談や鋭いツッコミで周囲を笑わせます。田辺さんは介護のたいへんさも書きつつ、夫の言動を“ヘンなオッサン”“天才”と面白がっている。つくづく「ああ、いい夫婦だなあ」と思います。特に好きなのは、夫の死を間近に感じて病室で涙を流してしまった田辺さんに、川野さんがいった一言。
彼は私に目を当て、ゆっくりと一語ずつくぎりながらつぶやく。〈かわいそに。ワシは あんたの。味方やで〉
なぜか七五調の愛のセリフに、田辺さんは思わず笑いだします。でもこの言葉が、川野さんの死後も、田辺さんの支えになるのです。シンプルだけど、どんなときも相手との会話が楽しくなるように努めること。これが夫婦の絆を強める秘けつではないでしょうか。
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