■女どうしの恋愛物語から、さらなる高みへ。人間の生を彩るさまざまなテーマが交錯する重層的な作品。物語に「打ちのめされる」快感を!
最初から最後まで、テンションがまったく落ちないサスペンスフルな展開!かなりの分量の大作だが、最後までぐいぐいと読まされてしまうのだ。そしてこの展開の中で、人と人、人と芸術との、劇的にして切実、哀しくも官能的な関係が見事に描き出されていて、読み終わった後、しばし呆然とするほどだ。
中山可穂という書き手を知っている人も、そうでない人も、ぜひぜひ読んでほしい。
彼女は、これまで、ビアンの恋愛という、ピンポイントなテーマを深く掘りさげながらも、「私小説」や「マニアック」の枠を凌駕するにたる力量を持つ書き手であった。しかし、テーマがピンポイントであるだけに、どうしても、作品世界の展開は狭まる。個人的には、『マラケシュ心中』あたりで、山の頂までのぼりきってしまったような感があった。だが、この作品は、そんな彼女が、さらに一段上のステージに上がったことを高らかに宣言する記念碑的なものとなったのではないだろうか。
もちろん、本作でも、同性どうしの恋は、重要な要素である。壮絶な恋に疲れ絶望したはずの伽椰は、混乱と苦しみの中で、それでも恋をする。恋とは、まさに「する」ものではなく「堕ちる」ものなのだということを、ひしひしと感じさせられる。
だが、本作のテーマはこれだけではない。鍵人という一人の男(中山作品には珍しく、色気のある男だ)の数奇な生い立ちの物語は、芸術というものに取り憑かれた宿命的な家族の重い物語でもあり、そこから瑞々しく立ち上がっていく青春の物語でもある。
このように、重層的なテーマが交錯し、サスペンスフルな展開のうちにすべてがひとつの到達点へと収束する結末へと導かれていくのである。作品世界は奥行き、深み、読み手を最後まで秋させない吸引力・・・どれをとっても、「一歩抜けた」感がある。
それにしても、人は、人を、芸術を、ここまで深く、愛せるものなのか。いや、そのように生まれついたにしても、おそらく、ほとんどの人は、深さゆえの傷を恐れ、その淵の前で立ちどまってしまうのだろう。だが、その淵に足を踏み入れた者だけが知る世界は、この作品のラストがそうであるように、濃密を一歩突き抜けて、清々しくすらある。
登場人物たちのような生き方を真似ようとは思わないが、いろいろな意味で、気持ちよく打ちのめされる作品である。
この本を買いたい!
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