モーツァルトに憑かれた男と、壮絶な恋の末に放浪する女。二人が出会ったとき、愛と復讐の絢爛にして哀しく残酷なドラマが幕を開ける・・・。著者の新境地を拓く渾身作!く 『ケッヘル』(上・下) ・中山可穂(著) ・価格:各1850円(税込) |
■モーツァルティアンの男と壮絶な恋のすえ放浪する女が出会い、ドラマは始める。モーツァルトの音楽は、二人をどこに運ぶのか?
『深爪』『感情教育』『白い薔薇の淵まで』『マラケシュ心中』と、女どうしの濃密で切なくも狂おしい恋愛を描き続けてきた中山可穂。肉感的かつ重いテーマを知性的かつ怜悧な筆致で描くことのできる日本人には珍しい作家である。そんな彼女自身が「もうひとつの処女作」と位置づけた渾身の大作。
政治家の妻・千秋との恋愛の末、彼女の狂気と夫の執着から逃れるため、すべてを捨て欧州を放浪する女性・伽椰はイギリス・カレイの浜辺で強烈なモーツァルティアン(モーツァルト愛好者)の遠松鍵人に出会う。見知らぬ他人である自分に、日本での住むところと仕事を提供するという鍵人。放浪の旅に疲れ果てていた伽椰はいぶかしがりながらも、彼の申し出を受け、帰国。鎌倉の屋敷に住み、鍵人の経営する「アマデウス旅行社」で仕事を始めるのだった。
「アマデウス旅行社」は、モーツァルティアンの客だけを相手に個人旅行の添乗をするという奇妙な旅行社だった。さっそく、伽椰は、家人には内緒でウィーンで行われる古い友人の追悼ミサに出たいという紳士・柳井とともにかの地に向かうが、彼は謎の死を遂げてしまう。さらに、女から逃れるために団体旅行を装ってプラハに趣、その地に隠遁したいという次の顧客、そして、彼に同行した友人たちにも奇禍が・・・そして、これらの事件は、どれもモーツァルトの楽曲に付けられた「ケッヘル番号」が関連していた。事件の背後に鍵人の影を感じはじめる伽椰。そんな中で、伽椰は、濡れた獣を思わせる独特の官能の持ち主である日本人女性ピアニストに出会い・・・
彼女の物語と、時を遡って鍵人の生まれる前から少年時代の物語が入れ子状態になって語られる構成で、物語は、次第に緊迫感を増していく。モーツァルトに憑かれた指揮者と彼を崇拝するピアニストの宿命の子として生れ落ちた鍵人は、数奇な運命に翻弄されてきたのだった。彼の過去と事件の関連は?伽椰の行き着く先は?ケッヘル番号は、彼と伽椰をどこに連れていくのか?
個人的には、2006年上半期、最大の収穫とも言える傑作。なんといっても、その魅力は・・・