■感覚の皮膜の奥にある硬質なるものを追い求めて書く。その生硬なスタンスが、作品に「いい話」以上の深みを与える
そう、そうならないあたりに、この著者の「らしさ」、真価がある。
森絵都という作家は、少なくとも今までは、いわゆる「オンナコドモ」向けの作品を多く書いてきた作家である。だが、このことから想像されがちな「感覚派」の書き手ではない。
彼女は、「甘い」だとか「切ない」だとか、曖昧なニュアンスにいたずらに頼ることをしない。
そういう感覚の薄い皮膜の奥にあるもっと硬質で確かな「何か」を突き詰めていこうとする。文章も「思いつき」で書かれたものではなく、語彙の選び方ひとつとっても、かなり練られている。
言ってみれば、彼女の作品は、作品全体にどこか、生硬なところがある。このあたりが、もしかすると好き嫌いの別れ目かもしれないが、私は、これが彼女の最大の魅力だと思っている。
こういう書き手だからこそ、本作においても、登場人物たちにいたずらに寄り添わない。客観的に、突き放した視線で、彼・彼女らの生き方を描きだしていく。もちろん、その滑稽さや、傲慢さなど、ネガティブな側面も怜悧な筆致で描く。
だから、本作は、「いい話」を超えて、ひとつの作品世界として通用するものになるのだ。「いい話」にはない深み、奥行きを持って読者に迫ってくるのだ。
いろいろな意味で、足腰の強い作家である(ご本人は、きわめてたおやかなお方なのだが・・・)。ぜひとも注目を!
この本を買いたい!
森さんはじめ、女性作家が大活躍、といえば、やっぱり、このジャンル。一言で「恋愛」といっても、さまざまな形あり。読まず嫌いは、損!情報チェックは、「恋愛・純文学を読む」で
森絵都さん関連のページをいくつかピックアップ!
「森絵都公認ファンクラブ」のページには、チャットや作品紹介のほか、魅力的な少年たちいっぱい『DIVE!』キャラクター人気投票なども。
『カラフル』(映画の主演は、今や飛ぶ鳥落とす勢いのKAT―TUNの田中聖くんです)『宇宙のみなしご』のほか、絵本「あいうえおちゃん」など、森作品を多く手がけてきた出版社が、理論社。児童書、ヤングアダルト系書籍の老舗です。「理論社ホームページ」には、森村泰昌、伏見憲明ら、異色な方の連載なども。
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