いよいよ脂が乗ってきた感のあるモリエトちゃん、最新短編集。損得勘定ぬきで「かけがえのないもの・こと」に懸命になる人々の日々を怜悧な筆致で描く 『風に舞いあがるビニールシート』 ・森絵都(著) ・価格:1470円(税込) |
■もっともっと、注目されてしかるべき作家の最新短編集。「トクにならないこと」に懸命になる不器用な生き方、その先にあるものは・・・
高板飛び込みに賭ける少年を鮮烈に描いた『DIVE!』でおなじみ、(だと思うのだが)はじめジュビナイル(十代向けの作品)の秀作を送り出してきたがモリエトさん。『永遠の出口』あたりから「オトナ」を意識した作品を手がけるようになり、『いつかパラソルの下で』が直木賞候補になるなど、本好きにとっては、新刊チェックがはずせない書き手の一人である。ちなみに、『DIVE!』は、今夏に文庫化されるそうで、そうなれば、あさのあつこ『バッテリー』現象にも似たことが起こるような予感が・・・。先物買いをするなら、今がチャンス、というわけで、最新短編集のご紹介。
獰猛な風に舞い上がり、放っておけば引き裂かれるビニールシート。それを追い、押さえる--そのために難民事業に携わっていると語るエドと結婚した「私」。だが、エドはぬくもりを享受することに罪悪感を覚え、紛争の地に身を置くことを選ぶ。そんな夫に疲れ、短い結婚生活を終えた「私」だが、彼がアフガンで命を落としたという報を聞き・・・(表題作)。
この作品のエドの信念は、たしかに尊い。だが、その信念は、「私」を追いつめ、傷つけ続けている。愛する存在を傷つけてやり通しても、自分ひとりで世界中の空に無数に舞うビニールシートを押さえることなどできない。 そのことを誰よりも知りつつ、それでも、彼は、信念に殉じる道しか選べないのだ。彼は、あまりに不器用で、とても愚かな男である。
そう、これこそが、6つの作品の登場人物の共通項である。
女性パティシェエの作るお菓子に惚れ込み、恋人に非難されながら彼女のために奔走する女性(「器を探して」)、見捨てられた犬の仮親になるボランティアのために夜の仕事をしている主婦(「犬の散歩」)・・・
「なぜ、あなたが?」「そんなことして何になる?」と言われそうなことに懸命になっている人々が描き出されている。「セレブ」「勝ち組」――そんな基準から見事に外れた生き方。それは、ヘビーで、時に滑稽ですらある。
だが、彼・彼女らは、誰のものでもない自分の人生を生き、そうでないと見えない世界の地平を見るのだ。
「モテカワ系」もいいが、他人からの評価しか基準がない生き方って、どうよ?
と、思わず、自分も含めて「楽でオリコウな生き方」を志向する巷の傾向に突っ込みを入れたくなってしまう。
で、こう書くと、「プロジェ○トX」的な世界を想像した方もいるだろう。
ところが、それが違うのである。