夫が好きではないリリ。親友である彼女の夫が好きでたまらない春名。それぞれを想う若い男性・・・通俗的な設定ゆえに著者の独自性が匂い立つ快作! 『夜の公園』 ・川上弘美(著) ・価格:1470円(税込) |
■二組の「不倫」カップル。「妻」と「愛人」は親友どうし。きわめて「通俗」的な設定だが・・・
『古道具 中野商店』で改めてこの人の描く恋愛は、本当にいい!と思わせてくれた著者が真正面から恋愛物語に取り組んでくれた作品。嬉しいです。本当に。
物語は、35歳の主婦リリが夜の公園を歩くシーンから始まる。リリはつぶやく。「帰りたくないなぁ」。そう、安定した生活を保障してくれている申し分ない夫の幸夫のことを自分が「あまり好きではない」ことに気づいてしまったのだ。そんな自分をもてあましたまま、ふとしたことから出会った年下の男性・暁と身体を重ねるリリ。彼女は、幸夫のことを好きな女性がいることにも気づいている。親友の春名である。学校の教師をしている春名は、すでに幸夫とは肉体関係がある。そして、幸夫以外とも複数の男性と関係をもっている春名。親友のリリと違い、男性への依存度の高い自分、同時に、幸夫のことが「ものすごく好き」な自分に戸惑っている。ある日、リリと暁、春名と幸夫、二つのカップルが鉢合わせをして・・・。
リリと幸夫夫婦には、それぞれに恋人がいる。幸夫には春名。リリには暁。そう、ともに「不倫」である。そして、「妻」と「愛人」である二人の女性は、「親友」だ。こう書くと、この物語の設定は、きわめて通俗的なものだとも言える。だが、私は、著者が、あえて、「通俗」を選んだように思える。