『明日の記憶』で話題の著者の最新作は、ホラー短編集。家賃激安、風呂ありのマンションに住んだ男が遭遇したのは・・・表題作はじめ9編を収録 『押入れのちよ』 ・荻原浩(著) ・価格:1575円(税込) |
■話題の著者の最新作は、ホラー短編集。童話風あり、サスペンスあり、青春ホラーあり・・・多彩な職人技、満載!
若年性アルツハイマーに向き合う夫婦を描いた『明日の記憶』のヒット・映画化で人気拡大、もっとも注目を集めている書き手である著者。書店にいくと、デビュー作『オロロ畑でつかまえて』をはじめ、『神様からのひと言』『誘拐ラブソディー』『コールドゲーム』・・・書店には、既作の文庫が平積みされ『さよならバースディ』『ママの狙撃銃』など、新作もドーンといい位置を占めている。
そんな様子を眺めながら、私は、思う。映画『明日の記憶』で「泣いて」、感動して原作を読んで、なかなかよくて、他の作品も読んでみるか、と思って読む人の中には、もしかすると、「ちょっと考えていたイメージと違うかも」と作品も少なからずあるのでは?
そう、著者、どちらかというと、感動策で「泣かす」より、じんわり、クスリと「笑わせる」のほうが得意な方・・・だと私は思う。
そんな彼が、最新作では、「泣かす」でもなく「笑わせる」でもなく「怖がらせる」に挑戦している。
彼女を部屋に呼ぶために風呂付きを条件に格安物件を探していた失業中の恵太。みつけたおんぼろマンションの押入れにいたのは・・・(表題作)。叔父が遺した洋館での生活。そこに住み着いていた猫は、次第に娘を、妻を・・・(『老猫』)。幼い頃、田舎の屋敷から行方不明になった妹。あることを確かめに屋敷を訪れた「私」が見たものは・・・(『木下闇』)。
9編の収録作品は、童話風あり、ブラックユーモアを滲ませたサスペンスタッチのものあり、切ない恋情が滲む「青春ホラー」ありと、そのテイストは実に多彩。
いい意味で「職人」的な器用さをもった著者らしい作品集である。
で、「怖がらせる」という点ではどうか。うーん、これが、あんまり怖くないのだ。
そして、それが、この作品集の魅力なのだ。