世界の「寿命」は、あと3年。未来なき世界を、仙台の団地で生きる人々それぞれの物語 『終末のフール』 ・伊坂幸太郎(著) ・価格:1470円(税込) |
■「世界の終わり」まで残り3年。地方都市の団地における人間群像を著者らしい「奇妙な明るさ」で描き出す
今もっともノっている書き手のひとりである著者。新作が出るたびにワクワクさせてくれるのだが、今回の作品は・・・
「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」。そんな発表から5年。恐怖心が巻き起こす、殺人、放火、強盗、自殺・・・。大混乱の嵐を生き延びた人々からなる世界は、やがて、奇妙な穏やかさを取り戻す。タイムリミットまであと3年、仙台市北部の団地「ヒルズタウン」では――自分の言動が原因で息子が自殺したと思い込む父親を絶縁した娘が訪れ(「終末のフール」)、優柔不断の男が妻の胎内に宿った新しい生命の「未来」を多いに迷い(「太陽のシール」)、元・アナウンサー一家の住まう部屋には彼のせいで妹を亡くした兄弟が押し入り(「籠城のビール」)、恐怖と絶望から父親が引きこもりになってしまった少年は尊敬するボクサーの世紀末の行動を知り、(「鋼鉄のウール」)、屋上では、偏屈な老大工が来るべき大洪水に備えて櫓を作る(「深海のポール」)・・・。
「世界の終わり」という人類共通の「物語」を背負いながら、それぞれの「物語」を生きる人々を描いた連作短編集。
「明日世界が終わるとすれば、何をする?」――性格テストだとか、相性診断だとか、そういうもので使われそうな問いかけ。どう答えても、それはあくまで「仮定」に過ぎない。いわば「空疎」な問いかけだ。この問いかけをあえて設定として選択したというあたりに、著者の野心を感じざるを得ない。
真剣に対峙するなら、「世界が終わるまでの残りの日々を、どう生き、誰と過ごすか」という問いかけは、当然のことながら、とてつもなく重い。その重さゆえに、物語がプラグマティズムに陥る危険性も多いにある。そうしないところが、この著者の独自性であり、凄みである。
そう、物語のタッチは、あくまで淡々としているのだ。
この著者の作品に共通する魅力は、一種、人を食ったような「奇妙な明るさ」だと思う。究極の「悲劇」を描いた同作でこそ、魅力がもっとも有効に作用しているのではないだろうか。
そして、この「奇妙な明るさ」にこそ、著者ならでの「たくらみ」が隠されているようにも思える。
それは・・・