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『今夜は心だけ抱いて』(2ページ目)

『肩ごしの恋人』で直木賞を受賞した著者の最新長編。母・47歳、娘・17歳、身体が入れ替わって・・・「心」VS「身体」「若さ」VS「成熟」それぞれの間に横たわるものとは?

執筆者:梅村 千恵

■「若さ」「成熟」に対する幻想を暴く醒めた視線が光る
 カラダとココロの年齢が乖離してしまった主人公を設定することで、まず浮き彫りにされたのは、一筋縄ではいかない、「カラダ」と「ココロ」の関係だ。たとえば、性愛に関して、カラダの反応がココロを衝き動かすのか、ココロのうねりがカラダのあり方を定めるのか・・・
 タイトル通り、「心だけ」抱く、ということは、抱かれるということは、できるのか。結論は、ぜひ本書を。
 さらには、著者は、女性の「若さ」と「成熟」に対する女性自身の“幻想”をも暴いてみせる。「若さ」が失われていくことに怯えている柊子は、究極のアンチエイジング(!)で若返り、大人に振りまわされることに焦れている美羽は、一足飛びに「成熟」を手に入れる。だが、柊子も美羽も、手に入れてみて「若さ」「成熟」が、思い描いたものとは異なることを知るのだ。
 こう書くと、少々説教めいた結末を想像する方がいらっしゃるかもしれないが、そこは、直木賞作家の実力、ラストにはアッと驚かされる。
ここ何年かの間に失ったもの、ここ何年か先の間に失うことが怖いもの。それが「若さ」である女性の方々にとって、オンナでああること、オンナとして年を重ねていくことの、どうしようもない面倒くささ、切なさ、やるせなさ、そして、それゆえの面白さをじんわり感じていただけるだろう。

 それにしても・・・ラストのネタばれを覚悟で超個人的な感想を述べるなら、17歳から人生をやりなおせ、といわれたら・・・たとえカラダが「17歳の私」ではなくても、パスだなぁ・・・10代、20代が、いろんな意味で、しんどかったので。あなたはどうですか?

この本を買いたい!


■『肩ごしの恋人』で直木賞を受賞した著者。「一流」の証である同賞。受賞作などについては、「芥川賞・直木賞受賞作を読む」でチェック

銀行勤務を経て『海色の午後』で第3回コバルト・ノベル大賞を受賞してデビューした著者。かつて“少女小説”の代名詞だった「コバルト」。今で言うところの、「ライトノベル」の雄、でしょうか。公募新人賞受賞者には、今や、すっかり「大物」の貫禄漂う、こんな方々も。実力派を見出し、育てる、本当に良心的な賞だったんですね。

第4回に受賞したのは、スケールの大きな作品で高い評価を得ている藤本ひとみさん「公式サイト」には、新刊情報、日記など。

この方も、直木賞作家です。山本文緒さんは、第10回の佳作受賞者。「公式サイト」には、秘書の方の日記、掲示板も。
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