『人のセックスを笑うな』
第41回文藝賞受賞作。19歳オレと39歳ユリの間に流れる「恋」とも「愛」とも名づけられない微妙な感情を描き、芥川賞候補にも


『人のセックスを笑うな』
・山崎ナオコーラ(著)
・価格:1050円(税込)

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■19歳学生の「オレ」と39歳人妻のユリ。「恋」「愛」という定義からこぼれてくる感情を研ぎ澄まされた言葉が掬いあげる

 文藝賞受賞作にして、第132回芥川賞候補作。選考委員のひとり、田中康夫氏から「嫉妬したくなるほどの才能」と言わしめた、大型新人、山崎ナオコーラさん。大胆なタイトルにパンクな内容を想像する方も少ないないだろう。だが、その予想に反し、とてもシンプルでなだらかな物語だ、少なくとも「外見」は・・・

 まずは、その「外見」を。
美術の専門学校生である19歳の「オレ」は、学校の講師で39歳で既婚のユリに、絵のモデルを頼まれて彼女のアトリエに何度か通ううちに、なんとなくセックスをすることに。目じりにシワがあって、ひじや膝や爪の生え際の手入れが悪くて、子どものように弱いところのあるユリへの恋とも愛ともつかぬ愛しい思いに包まれて日々を過ごすが・・・

 作品中で何か大きな事件が二人を襲うわけでもない。ユリの年上の夫である「猪熊さん」との遭遇も、切ないけれど、どこかほのぼのとしていて、修羅場とは程遠い。恋の始まりも、恋の終わりも茫洋としていて、その間に流れる時間は、表面上はとても平らかだ。

 それにも関わらず、読んでいると、とてもドキドキする。

 ユリのメールや会話から、彼女が年のわりには、ひ弱いところを持っているのを感じ、それを冷静に分析しているオレ。
 いつもと違う形で身体を重ねた後に、突然、「愛は冷めてきたのかもしれない」と思うオレ。
 しばらく時間が経つと、また盛り上がってきて、会いたい気持ちを止めることができず、ユリの「ゆがみ具合がたまらない」と思うオレ。
 ユリと一緒にいるのだ、と思うそばから、運命の女は別にいるとも思うオレ。

 経験ありませんか?こういう感じ。そう、一文、一文に、「そう、そう、この感じ・・・」がいっぱい詰まっているのだ。
 失うのが怖いから相手の欠点をあえて探してみたり、反対に、相手の欠点がとてもいとおしくなったり、離れたり、近づいたり、緊迫したり、緩んだり・・・こういうのの繰り返し、そう、これこそが、「恋」そのものだったんだ――そう思わされる。

いや、「恋」と安易に名づけてしまうのも、なんだか、少し違う気がする。
 ――要は、側にいたから心がくっ付いたのだ
体をくっ付けたから――
と書く著者は、「恋」や「愛」といった、定義からこぼれてくるような感情を、著者は、平明だが選びぬいた言葉で掬いあげるのだ。
 選考委員で今回直木賞を受賞した角田光代氏は、「何を書くのかでなく、どう書くのかということに誠実な作品」と評したが、描写力、筆力という意味では、新人離れしていると言っていいだろう。
 そして、この著者が、「新人離れ」している点はほかにもある。