母・47歳、娘・17歳。身体が入れ替わって・・・ココロとカラダの「年齢」差が教えてくれたもの。それは・・・ 『今夜は心だけ抱いて』 ・唯川恵(著) ・価格:1680円(税込) |
■母と娘のカラダが入れ替わって・・・寓話めいた設定。でも、物語はきわめてリアル!
『肩ごしの恋人』で直木賞を受賞し、女性の恋や日常をリアルに描くことにかけては定評ある著者の最新作。「恋愛小説」ではあるのですが、恋愛が最大の関心ごとであった時代を過ぎて久しい私が、これまた久かたぶりに出逢った「リアル」な物語だった。
主人公は、二人の女性。47歳の柊子は、バツイチ。ロマンス小説の翻訳者として自活している。そろそろ老眼鏡に頼らなければいけない自分の年齢にやるせなさを感じ、誠実だが面白みのない男の実のある好意より、生活の華を求めて既婚の年下男の薄っぺらな褒め言葉を選ぶ・・・そんな女性だ。そして、もうひとりの主人公は、柊子の娘、17歳の美羽。幼い頃に家を出た柊子に対しては、愛憎どころか関心すらも抱いていない。柊子も母になれない自分を十二分に自覚している。そんな「他人以上に他人」な母と娘が再び接点を持つこととなり、あろうことか、事故がきっかけで互いの身体が入れ替わってしまう。
この設定、やはり直木賞を受賞した作家を一躍メジャーに押し上げた作品と激似ではある。ではあるが、作品の内実は、似て非なるものだ。
手っ取り早く言えば、こちらの作品のほうが、エグい。泣けない。
その分、リアルだ。
若いカラダに熟れたココロの柊子、熟れたカラダに若いココロの美羽――主人公の二人は、互いのカラダを取り巻いていた恋や人間関係に年齢の異なるココロで向き合うことになる。その有様を、著者は、リアルに描き出す。 互いの下着をみたときの反応、互いが「恋」をしているらしい相手に対する反応など、女性の多くにとっては、その描写は、一種いやらしいほどリアルであろう。
著者は、このリアルな描写でなにを浮き彫りにしようとしたのか。