■選択肢が増えた分、迷いも増える・・・「アフター雇均法世代」の女性たちに強力エール。男性たちにも・・・
少々唐突だが、男女雇用機会均等法が施行されて今年で20年になるそうだ。すなわち、ここに出てくる女性たちは、「アフター雇均法世代」である。この法律が、どれほどの実効性があったのか、いや、なかったのかはさておき、少なくとも、「アフター雇均法世代」の働く女性たちの多くの心のうちには「結婚しても子どもを生んでも働き続けて男なみにキャリアを積み上げるという選択もないことはない、場合によってはアリ」というような考えがごく自然に刷り込まれているように思う。
もちろん、そういう道を選ぶか選ばないかは、まったく個人の事情によるもの。とはいえ、『ヒロくん』の主人公のように結婚しても仕事を続けて結果的に夫よりも収入が多い女性、『ワーキング・マザー』の主人公ように子どもを育てながらキャリアを重ねる女性も、多数派ではないけれど、レアというわけでもないのが事実だ。
まあ、てっとり早く言うなら、女性にとっての選択肢が増えたわけだ。もちろん。それは、多くの福音をもたらしたのだと思う。だが、選択肢が増えた分、
――どんな道を選んでも、ちがう道があったのではと思えてくる――
のだ。
それを「何アマちゃんなこと言ってんだよ」とか「だからなんなのよ」とか「だからオンナは・・・」と断罪、あるいは批判するのも容易いだろう。だけど・・・
断罪や批判するのは、多分、小説の仕事ではない。
そのあたりを著者は、わかりすぎるほどわかっているのだろうと思う。
それにしても、再び、男の身で、なぜにここまで・・・直木賞作家の創造力、恐るべし!である。
でも、もしかしたら、男性作家の作品だから、女性が心地よく読めるのかも。女性作家が書くと、どうしても同姓の「負の部分」を増幅してしまいがちなので。
もちろん、企業社会で格闘している女性たちにはゼッタイおすすめ。間違いなく、元気になれます(『ガール』の“生涯一ガール”、だけど仕事はデキる、お光サン、サイコー!!)。男性作家からエールを贈ってもらっているのが、ヤッパリ嬉しい!
ついでに、できれば、男性諸氏にも読んでいただきたい、デス!
とくに、『ガール』『ワーキングマザー』などに登場する女性どうしの間に流れる深い共感を読み取っていただきたい、デス!
で、「やっぱ、女の敵は女なんだよね」なんてシタリ顔で決め付けないでよね!
・・・というのは、かなり個人的な思いなのだが。
女もいろいろ考えているわけよ、働くってことについて。しかもけっこう真剣に、切実に。
真剣で切実だから、こんなに滑稽でオモロイわけよ!
ということを、ほんの少しでも本音のところで感じていただければ、と願う次第である。
この本を買いたい!
■とんでも精神科医・伊良部が快刀乱麻の大暴走をする人気シリーズ第二作『空中ブランコ』で直木賞を受賞した著者。直木賞に関する情報は、「芥川賞・直木賞作品を読む」で
●コメディーの要素を取り入れるなら画期的に巧い著者ですが、『最悪』『邪魔』といったハードな犯罪小説もいい!『邪魔』は、大藪春彦賞を受賞しています。非公募の賞で、受賞者は、個人的にとっても私ごのみ!たとえば、こんな方が。
最新の受賞は、『遠くて浅い海』ヒキタクニオさん。『鳶がクルリと』は映画化もされましたね。ご本人のサイト「踊る顔面 ヒキタクニオ」はマルチメディアクリエイターでもあるだけあって、凝ってます
『ワイルドスワン』で受賞した垣根涼介氏。そういえば彼も「君たちに明日はない」という企業小説を書いてますね。公式サイト「Dawning day、Dawning life」には、彼の創作に多いに影響を与えたと思われる南米の旅行記なども。
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