■登場人物の肉体と性を持つ自己を凝視する冷徹な視線が見つめる「絶望の果て」。そこにはあるものとは?
著者は、「娼館」という、お金を介在としての性の交歓の場を、きわめて精神的なスペースとして描き出す。そこを束ねる謎めいた美女、マダム・アナイスが、性とはそもそもなんぞや、という観念をつきつめて創ったスペースなのだ。また、そこは、主人公にとって、そこは、魂の修行の場ともなる。彼女は、ひとりの人間として、女として、自らの絶望と決然と対峙する。
主人公も、マダム・アナイスも、そして、そこを訪れ、ひたすらに「愛」を語る、安易に感覚に流されない。肉体を持つ存在である自己を凝視する冷徹な視線を持っている。いわば、かなり観念的な人物なのである。
こういう人物に共感できるかどうかは、人の好みもあろう。だが、私と同様、妙に感覚的な人物より、こちらの方が自己を投影しやすいという方にとっては、主人公はじめ登場人物のあり方は、痛ましくも力強く、潔く、深い感動を持って迫ってくるのではないだろうか。
人が絶望の果てを、それでも生きていく時、彼女は、彼は、何にすがり、何を見つめるのか。
一言では表しえない、その答えを、著者は、物語で奏でる。
巷では、アマチュアな作品が人気だが、プロの凄みを堪能させてくれる一作。もちろん、著者ご本人にあこがれている私の贔屓目、かなり入っておりますが、それをさしい引いても、読む価値あり!だと思います。
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