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『青山娼館』

小池真理子、最新作。かけがえのない存在を喪った一人の女性が「生きるために」選んだ選択。それは・・・高級娼館を舞台にした感動長編作!

執筆者:梅村 千恵


『青山娼館』
舞台は、高級娼館。かけがえのない存在を喪った主人公が生きるために選んだこと。それは・・・

『青山娼館』
・小池真理子(著)
・価格:1575円(税込)

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■高級娼館を舞台に、絶望から立ち上がろうとする女性の魂の彷徨を描く長編作

 もうずいぶん昔になってしまったが、『恋』に出逢って以来、この方の作品、そして、この方ご自身が、私にとっては、とてもとても大きな存在・・・そう、小池真理子さまの最新作でございます。

 妻子ある男の子どもを生んだ奈月は、実母の力を借りて愛娘を育てているシングルマザー。だが、自己中心的でだらしない母の不注意から娘が事故死してしまう。深い喪失感に沈む彼女は、あるきっかけから友人である麻木子が働いている高級娼館で働こうと決意する。だが、その麻木子も自殺。絶望と怒りにのたうち回る奈月が高級娼館「マダム・アナイス」で体験したものとは・・・。苛烈な運命を懸命に生きる女性の格闘を描く。

 いや、高級娼婦の「館」でございますよ、舞台が。日常と地続きな設定の作品が好まれる、この時勢に、この非日常・・・。小池女史のゆるぎない自信を感じずにはいられません。

 誤解を恐れずに言うと、「日常と地続き・・・」が、ライトなハヤリ唄だとしたら、この作品は、オーケストラで奏でられる交響曲のようなものなのだ。少なくとも私にとっては。
作品がひとつの世界であり、その世界は非日常であるのに一種リアルで、触れられるような、触れればちゃんとした質感があるような、そんな思いすらする。

 主人公の奈月は、ふとしたことから触れた、見知らぬ異性の人肌の温もりに一縷の光を見出す。このくだりがすごくいい。そして、この体験が、彼女に娼婦となることを決意させるのだが、魂の触れ合いなど一片もない触れ合い、まさに肌と肌のみの触れ合いにすがりつかなければならない彼女の痛み、絶望・・・それは、もちろん、私も含め、多くの読者にとってけっして近しいものではないだろうけど、それでも、それでも、「そういう気持ちってわかる」と思わされてしまう。このあたりの導入のうまさ、さすがである。
「身体を売る」「性を売る」女性を主人公にしながらも、安易なポルノにしないところも、いかにも小池女史らしい(ソレを期待して手にとられる方には、残念、というところもあるんだろうけれど・・・)。
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