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『スープ・オペラ』

阿川佐和子女史の本格長編小説。35歳、独身。ベタなぎの暮らしを送る主人公に訪れた大変化とは?あったかくて滋味深い一品です。

執筆者:梅村 千恵


『スープ・オペラ』
男二人、女一人。キャー、スリリングな三角関係!?ちょっと違うんだな、これが。違うけれど・・・ 

『スープ・オペラ』
・阿川佐和子(著)
・価格:1680円(税込)

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■アガワ女史の本格長編小説。大人が書いた大人のための・・・
 エッセイストとして、ニュースキャスターとして大活躍の阿川佐和子女史。坪田譲治賞受賞の『ウメ子』が映画化されるなど、物語作家としても「蛙の子は蛙」ぶりを発揮なさっていらっしゃるが、そんな彼女が初めて本格文芸誌に連載した長編小説。主人公は、35歳、独身、大学の総務部勤務のルイ。東京・世田谷の古ぼけた一軒家で叔母であるトバちゃんと暮らしている。ある日、トバちゃんが大志を抱く医師との恋に堕ち、彼とともに旅立っていく。一方ルイは、60歳を過ぎたモテ男・トニーさんと、女性に迫られやすくフラれやすい30歳の康介と出逢い、ともに暮らし始める。擬似家族のような結びつきはやがて・・・。愛すべき登場人物たちが繰り広げるハートウォーミング・コメディーだ。

 物語の核になるのは、男二人に女ひとりの関係性。さぞかし、スリリングな展開になるのかと思いきや、確かに状況的にはけっこうスリリングだったりもするわけだが、も全体的にみると、かなりユルい。ルイの康介に対する思いも、恋のような、そうではないような、それでもやっぱり恋のような・・・という微妙で曖昧な関係のまま、物語は進行し、登場人物たちは、その微妙さをあえて微妙なままに放置し、楽しもうとする。物語の終幕近くで、ルイの「父親」疑惑が持ち上がったトニーさんは、「曖昧なことはすてきなのことだ」と語るが、そのとおり!と思わず、大納得してしまった。
あくまで個人的な見解なのだが、お若い方ほど、「恋」の形式にこだわるような気がする。どっちがコクるか大問題で、浮気したとかしないとか、「カレシ」とか「元カノ」とか「元カレ」とか・・・。かく言う私も、もしかしするとそうだったのかもしれないが、恋愛が人生最大のテーマという季節を卒業してしまうと、「形式」からちょっと外れたところにある旨味みたいなものに少しずつ気づきだす。そう、本作のルイちゃんや康介クンのように・・・(それにしても、かなり年上の男と、ちょっと年下の男との・・・なんて、理想的!こんなことがあれば、「負け犬上等!」である)

 そう、食材だって、スープにすると身と皮や骨の間にある部分からいい味が出る。タイトル通り、そんな旨味がぎゅっと詰まった本作、まさに、大人の書いた大人のための、あえてこう言おう、「ラブストーリー」である。
 
 スープといえば・・・
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