■「愛」「友情」“定義”からはみ出して溢れる複雑な感情を描きだす著者。その魅力のエッセンスが凝縮
本作には、ニートな男&駆け出しの女性作家はじめ、何組かの男女が登場する。彼らは、互いに、相手に対して、何らかの思いを寄せている。
その思いは、「愛」なのか、「恋」なのか、「友情」なのか、「執着」なのか、「憧憬」なのか。
そのどれでもあるようで、どれでもない。そう、著者は、人が人に寄せる感情を「カテゴライズ」することを拒否するのだ。「これとこれとこれとをしてあげる、ある意味はしてもらえば、愛」というような条件付けをしないのだ。
表題作及び『2+1』に登場する女性作家は、行為から言うと、ニートな男にさまざまなことを「してあげる」。金銭を与え、住む部屋を与え、食事を与え、身体の関係も結ぶ。だが、彼女は、その行為の源泉に、傲慢や自己満足があることを自覚している。その自覚が彼女を揺らし、困惑させる。だが、どんなに困惑しても、彼女は、自分の感情を「愛だ」と決め付け、その言説に逃げ込むことはけっしてしない。
私が、絲山作品の登場人物が、絲山作品が、絲山秋子という作家が好きなのは、ここなのだ。
彼女は、「愛」「友情」あるいは「憎しみ」といった定義からはみ出してくる思いを丹念に描きだす。これも、物語にしかできないことことだと思う。
絲山作品の魅力のエッセンスがぎゅっと詰まった本作。くどいようだが、ぜひぜひ、一人でも多くの人に読んでいただきたい。
この本を買いたい!
◆著者は、自分の作品が「ジャンル」という形でカテゴライズされることにも違和感があるそうですが、先入観なしで読むと、「純文」というものは、とても豊かです。情報チェックは、「恋愛・純文学を読む」で
■『袋小路の男』で川端康成賞を受賞した著者。ほかにもこんな受賞者が
絲山秋子の公式ページ「絲山秋子website」では、群馬県内に構えた仕事部屋周辺での彼女の日常を知ることができます。
平成14年、『権現の踊り子』で受賞。この人も、常に次作が楽しみな方です。次も、思い切り、気持ちよく、いい意味で裏切ってほしい!町田康さんの公式ページ「Official MachidaKou Website」で、では、ミュージシャンとしての彼の情報もチェックできます。
平成15年『スタンス・ドット』で受賞した堀江敏幸さん。『雪沼とその周辺』は、個人的に、超・超・超オススメ!「堀江敏幸教授のレミントン・ポータブル」では、明治大学教授である彼の活動を紹介されています。
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