川端康成文学賞受賞作家、初の書き下ろし長編は、突き抜けたユーモア炸裂のロード・ノベル!『逃亡くそたわけ』・絲山秋子(著) ・価格:各1360円(税込)この本を買いたい!■奇妙な二人の奇妙な逃避行は、トラブル続出!突き抜けたユーモアが随所にあふれるロードノベル 『イッツ・オンリー・トーク』で文学界新人賞を受賞しデビュー、同作が芥川賞候補になり、『袋小路の男』では川端康成賞を受賞・・・こうして履歴を書くと、いかにも純文学の正道をまっしぐら、ちょっととっつきにくそうに思えてしまう著者。だが、彼女の作品の魅力の一つは、どこかスパーンと突き抜けたユーモアだと思う。そんな絲山作品の魅力が、気持ちよくスパークしたのが、本作。タイトルからして、ジュンブン路線から外れているよね・・・。 主人公の「あたし」こと、花ちゃんは、躁病で福岡の病院に入院中。“亜麻布二十エレは上衣一着に値する”という意味のわからない幻聴が聞こえたら、調子が悪くなる。このままでは、一度しかない21歳の夏がこんなところで終ってしまう・・・いてもたってもいられなくなって、ある日、病院脱走を決意する。脱走の道連れになったのは、その日の朝にたまたま目にとまった鬱病で入院中、標準語を操る茶髪のサラリーマンなごやんこと蓬田司だった。 東京出身と言い張っていたが、実は、名古屋出身。そのことを恥じて、名古屋を否定しているのに、食べ物話でおもわずムキになって名古屋のお菓子「なごやん」を弁護したことから、そんなあだ名を頂戴したという思わずイジリたくなるキャラの持ち主。優柔不断のなごやんは、思い込みのまま突っ走り、理屈にもならない理屈をコテコテの博多弁でまくしたてる花ちゃんに引きずられるようにして、自身の車に花ちゃんを乗せ、ご丁寧に貯金もたっぷりおろして逃避行のお付き合いをすることに。 なごやんの所有する、四角いオヤジ車、昭和62年登録の「広島のメルセデス」ルーチェーに乗っての逃避行が始まった。福岡から、国東半島、別府、阿蘇、宮崎・・・途中で車のクーラーは壊れるは、無免許の花ちゃんが車を運転してヤバイ人が乗っているらしいポルシェに当てるは、かなづちのなごやんが川で洗濯中に流されるは・・・互いが抱えている病気のせいだとばかりは思えないドタバタに巻き込まれながら、二人は九州を南へ南へ・・・ 設定からするとアブナイ二人のアブナイ逃避行なのだが、ロマンティックもシリアスも程遠い。 何せ、「コテコテの博多弁」VS「東京オタクの標準語」で繰り広げられる二人の口げんかのネタたるや、阿蘇山名物いきなり団子は美味いかまずいか、冷麺にマヨネーズをかけるか否か、富士山と阿蘇山は、どっちが綺麗か・・・。「手配」が回っているだろうことを理由に高速道路には乗らないくせに、途中で温泉に寄って、しっかり名所も観光したりもして、切羽詰っているんだが、暢気なんだか・・・ 現実離れしているのかもしれないけれど、読んでいるうちに、「逃げるって、意外に、こんな感じかも」と思わされてしまう。 と同時に、「逃げる」という自体についても、少々考えさせられた。12次のページへ