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かつて少年、少女だった、すべての人へ 『桃』

傑作恋愛小説『ツ、イ、ラ、ク』の“長命中学校”蓋t日。あのスキャンダルの当事者、傍らにいた人々、それぞれの性の記憶を描く。

執筆者:梅村 千恵


『ツ、イ、ラ、ク』の感動、再び!かつて、少女だった、少年だった人に贈る苦くて切ない性の記憶、6編

『桃』
・姫野カオルコ(著)
・価格:1470円(税込)

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■『ツ、イ、ラ、ク』に描かれた場所、時間に存在した人々が語る、それぞれの性の記憶6編
 
 桃を食べると、むかしが追いかけてくる。桃を避けているのは、だから――三十二歳の誕生日に桃を食べる主人公。彼女を追いかけてくる「むかし」。それは、湖を望む町の中学校に通っていた少女の頃のこと。男性教師との肉体関係で目覚めた官能の震え、狂おしいほどの恋の痛み・・・

 表題作の主人公は、そう、著者の前作であり、最高傑作でもある(と私は思う)『ツ、イ、ラ、ク』の主人公、隼子である。そう、6編の短編を収めた本作は、直木賞候補となった(私の中では、最有力、でした)『ツ、イ、ラ、ク』に描かれた、女子生徒と教師の性的スキャンダルの当事者およびその周辺にいた人々が登場する。
 隼子の「公式」なお相手だった一学年上の男子生徒の友人(『卒業写真』)、隼子と同級生で、彼女が属していたのは異なる地味系グループに属していた少女(『青痣(しみ)』)、隼子と比較的近しい友人の中ではもっとも目立たない存在だった頼子(『汝、病めるときもすこやかなるときも』)ある理由から隼子に徹底的に嫌われていた男性教師(『世帯主がたばこを減らそうと考えた夜』)・・・

 同じ場所で同じ時間を共有した彼らの性の記憶には、なんらかの形で、「あの醜聞」が影を落としている。隼子への複雑な憎しみを身体に刻み込んだまま大人になった同級生、醜聞をきっかけに暗い性の衝動の爆発を体験し、後悔を心の奥に秘めながら歳を重ねる教師・・・だが、その影の濃さや形は、6人それぞれに異なる。濃く深く影を刻み込んでいる者もいれば、ほとんど、その影の影響を受けていない者もいる。本作を読み通すと、あの醜聞は、同じひとつの出来事であるのに、まったく違う出来事であるかのようにすら思えるほどだ。そのわけは・・・
『桃』
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