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今年は、この著者がくる!(かも) 『さくら』

『あおい』でデビューした著者の第二作。ある家族に起こった小さな奇跡を独特のリズムある筆致で描く。書店員さんたちの大プッシュを受けて好調です。

執筆者:梅村 千恵


気鋭の新人の第2作。ある家族におこった小さな奇跡の物語。書店員さんたちに愛されて、大躍進!

『さくら』
・西加奈子(著)
・価格:1470円(税込)

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■ある家族を襲った喪失の痛みと、再生の奇跡を、独特のユーモアを交えて、まっすぐに描く
 『あおい』でデビューした著者の第二作。無名に近い著者ではあるが、本作は、書店員さんたちの大きな支持を受けているらしく、書店で「いい位置」を確保し、じわじわと売れ続けているようだ。

 物語は、大学生の“僕”のところに、父さんから2年ぶりに手紙がきたところから始まる。
 「年末 家に帰ります」。
“僕”は、父、母、妹のミキ、愛犬のサクラの待つ大阪郊外への実家へと帰る。誤ってばかりいる父と、すっかり太った母たちと再会の夕食に鍋を囲み、大晦日には一家恒例の行事である餃子づくり。一見、仲のよさそうな家族。だが、どこか、ぎこちない。何かが足りない。
 相変わらず不細工なサクラを散歩させながら、“僕”を思い出す。足りないものなど何もなかった日々のことを。もうひとり、家族が、誰からも愛されていたヒーローのいた日々のことを。そして、その日々が壊れてしまった、あの瞬間のことを・・・。
 
 記憶力抜群の“僕”の、回想の形で、“僕”が子どもから少年へ、少年から大人になるまでの、家族に起こった事件や、“僕”の性の目覚めなどが、独特のユーモアを交え、綴られていく。その中で、この家族の抱かえる喪失の正体が次第に明らかにされていく。父の失踪の理由、母の激太りの理由、そして、妹ミキのどこか投げやりな態度の理由・・・

 異性を好きになることの切なさ、身体を重ね合わせることの意味、そして、生への慈しみを、独特のユーモアを交え、描かれる。きわめて、まっすぐな物語である。「セカチュウ」でも、「いま会い」でも、涙腺に何の異常もきたさなかったヒネクレものの私には、どちらかというと、苦手な系統。動物が登場するのも、ダメなほうだし。
 なのだが、白状してしまうと、不覚にも、涙腺にきてしまいました。とくに、多分に感情過多な少女であるミキの早熟でけっして実らぬ“恋”、あまりに切ない。やられたなぁ・・・
『さくら』
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