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江國香織、最新作! 『赤い長靴』(2ページ目)

結婚十年、子供のいない夫婦、日和子と逍三の日常を描く連作短編集。透明感あふれる言葉で包まれた、実は、劇薬です。

執筆者:梅村 千恵

■ ふわふわと不安定な「幸福」。壊そうと思えば、いつでも壊せる。やめようと思えば、いつでもやめられる。だから・・・

 言葉の通じない夫と暮らし、同じごはんを食べることを「グロテスク」だと感じ、夫のいないところに出かけるのが好きな日和子だが、その一方で、彼女は、夫と二人きりのごはんがもっとも落ち着くとも思っているし、夫のいない家に帰ってくるのも好きだから、寄り道もせず帰ってくる。

 そう、彼、ほとんど幸福といってもいい奇女は、幸福でもあるのだ。
諦念の中にゆらゆら揺れている奇妙な心地よさ。それが捨てられないのである。

 その幸福は、危うくて、ふわふわと不安定でとどめておけないもの。壊そうと思えば壊せる。

だから、壊さないのである。

――いつでもやめることができる。そんな風に思える。のびのびした、自由な気もち・・・(「熊とモーツァルト」)

 再び、うーん、めちゃくちゃよくわかりますなぁ~この感じ。一般的に言って、多くの既婚男性は、そう思っている方が多いと思うが、既婚女性だって、こう思っているんだよね、意外に。

 おそらく、少なからずの数の既婚男性は、隣のいる人がそう思っていることに気づいていないだろう。

 この本を読んだ後、未婚の方には、身近にいる「理想の夫婦」が違う風に見えてくるかもしれない。
既婚の人には、隣にいる夫や妻が違う風に見えてくるかもしれない。

 怖いですよ、けっこう、本当に。この作品は、(この作品に限らないと思うんだけど)透明感ある美しい文体という糖衣に包まれた劇薬だ。

■「○○の物語」紋切り型のフレーズが通用しない。本物の小説

 この小説は、夫婦愛の物語ではないし、不倫や裏切りの物語もない。夫婦の物語ではあるけれど、読んでいるうちに、その夫婦の概念そのものすらも揺らいでくる。
 
 だから、この作品は、本当に、いい小説だと思う。

 だって、人と人との関係を、そんな紋切り型のフレーズで語りつくせてしまうなら、この世に小説なんていらないではないか。

派手な作品ではないけれど、小説の力というものを改めて実感させてくれる極上の一作だと思う。

この本を買いたい!


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◆繊細な心理描写、透明感あふれる文体・・・当代切っての人気を誇る江國香織。最近の話題は、やっぱり、この作品の映像化ですよね◆

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