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祝!直木賞 『対岸の彼女』(2ページ目)

祝!直木賞! 結婚して子どものいる小夜子は、同じ大学出身の葵が経営している会社で仕事をすることに。そして、やがて・・・。巧みな構成で、現在を生きる彼女たちの苦悩と旅立ちを鮮やかに浮かび上がらせる。

執筆者:梅村 千恵


■「私って、いつまで私のままなんだろう」。多忙な日々の中でふとそう思う、そんなすべての人に

 幼稚園、小学校、中学校と苛めにあい、それから逃れるように、田舎町に引っ越してきた葵。閉鎖的な高校で、苛められないよう息を潜めて日々を送っている葵。そんな彼女に対し、親友の魚子は、葵が、みんなが持っていないものを持っているから苛められたのだと、葵と出逢えたから、過去に葵をいじめた人を感謝するという。そして、自分自身が苛められてもぜんぜん怖くないと言い切る。「そんなところにあたしの大切なものはない」と。
高校時代の「葵・魚子」は、現在の「小夜子・葵」の関係と相似形をなしている。そして、
閉鎖的な人間関係に怯えている十代の葵が、現在の葵になったのは、なぜなのか、その謎の答えが知りたくて、ページを繰る手が止まらなくなる。

 そして、結末近く、その答えがわかった時、大きな感動に包まれるだろう。そう、小夜子が、葵の部屋で、彼女が保管している魚子からの手紙を読んだ時のように・・・。
 そう、小夜子が、何度も自問する言葉、「私たちは、何のために歳を重ねるのだろう」その言葉の意味するところが、ずしんと心に響いてくるだろう。
 川の対岸をそれぞれに歩いてきた小夜子と葵。声は届かなくても、指を指す方向には、一本の橋がかかっている・・・ラストの小夜子の心象風景は、「女の友情」というような言葉で説明してしまうのが申し訳ないほど、深くて清らかで、鮮やかだ。

 『空中庭園』で家族というものが内包する「嘘」を斬った著者。シニカルでコミカルな筆致が特徴でもあるが、この作品では、本当に真正面から、30代の女性、彼女たちの10代の日々を緻密に積み上げている。
こんちくしょう、こんちくしょうと つぶやきながら自転車をこぐ小夜子。社長室で一人、膝を抱かえ、出てこない涙を誘うように「うえーん」と声を出す葵。
そんな彼女たちの描写が、痛いほどのリアリティーとともに、胸に刻み込まれ、離れない。

 この作品は、こんな一文から始まる。
「私って、いったいいつまで私のままなんだろう」――
大人と呼ばれる年齢になって、なんとか生き場所を確保して、なんとか日々をやり過ごしていて、それでも、ふと、心の中に、成長しない自分がまだ棲んでいる、そんな気がする・・・
そんな方に、ぜひ読んでいただきたい一冊である。

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恋をして、仕事をして・・・同時代に生きる女性の息吹を感じられる作品を探すなら、このジャンル。情報チェックは、「恋愛・純文学の作家ページ」で。

◆海燕新人文学賞を受賞しデビュー、以来、『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、『空中庭園』で婦人公論文芸賞と、受賞歴多数の角田光代さん。新鋭作家の中・長編(芥川賞は短編対象)に与えられる野間文芸賞受賞者には、こんな作家が・・・。◆

第15回『ノヴァーリスの引用』で受賞した奥泉光。『石の来歴』で芥川賞も獲りましたよね。公式サイト「バーナル主義」では、自作解説、ここでしか読めない作品も。

第25回『ファンタジスタ』で受賞した星野智幸。公式サイト「星野智幸アーカイヴス」では、発表済みのエッセイも順次アップロード。著作の購入もできます。

第26回『ぐるぐる回るすべり台』で受賞した中村航。公式サイト「中村航公式サイト」には、著作リスト、日記に加え、『リレキショ』に登場した歌の楽譜など、彼らしいコンテンツも。
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