第132回直木賞受賞作。現在を生きる女性たちの苦悩と旅立ちを描く |
『対岸の彼女』
・角田光代(著)
・価格:1680円(税込)
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■第132回直木賞受賞作。既婚・子持ちの小夜子と独身・起業家の葵。図式的には、「勝ち犬」「負け犬」だが・・・
著者は、過去、芥川賞二度、直木賞三度、候補に上がり、ついに、今回、直木賞作家の栄冠を射止めた。受賞コメントでは、亡くなれたお母様のことに触れ、言葉をつまらせていらっしゃったのが、印象的だった。
さて、その作品は・・・
結婚して女の子を産んだ小夜子。公園内でのママ同士の派閥や変化のない日々に閉塞感を覚え、それを打破するために、働きに出る決意をする。就職活動を始めた小夜子は、同じ歳で同じ大学の出身だと言う女社長・葵に出会う。大学の同窓生に接するように自分に接してくれる彼女に親しみを感じた小夜子は、同社が新しく始めた掃除代行の仕事をすることになることに。
独身で起業家、大らかで、闊達。自分とはすべてにおいて180度違う葵に、羨望を感じる小夜子。「サークル感覚で経営している」という社員の批判にもめげない葵。「ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてこわくないと思わせてくれる何かと出逢うことの方が、うんと大事」と言う葵。高校、大学、社会人、そして結婚した今も、閉鎖された集団内の人間関係・友人関係に神経を尖らせて生きてきた小夜子は、それにわずらわされず、わが道を歩いている葵との触れ合いによって、新たな世界を発見した思いに打たれる。
だが、そんな葵には、ある過去があった・・・。
小夜子の視点から語られる30代の二人の女性の現在の物語に、スキャンダラスな終末を迎えた葵の高校時代の友人・魚子(ななこ)との物語が織り込まれる形で進行する。
作品の横糸とも言える「現在」の物語は、図式としては、流行りの言葉で言うなら、既婚・子持ちの「勝ち犬」女と、未婚・キャリアの「負け犬」女との確執と友情の物語である。だが、この物語は、そんな風に言い切ってしまえるほど、薄っぺらいものではない。
ここに登場する30代女性のありようは、結婚・未婚、子あり・子なしという状況の差異だけで定義しうるほど単純なものではない。そのことを実感させてくれるのが、縦糸ともいえる高校時代の葵の物語である。