■徹底的に爽快でないはずの主人公に覚える不思議な爽快感。この落差に、小説の醍醐味が・・・
社会規範、道徳、宗教・・・すべての「善なるもの」が否定する悪を犯しながら人生を駆け抜けていくアイ子の道程には、強烈な疾走感がある。その疾走感とともに読み進めるうちに、多くの方は、いつの間にか、心のどこかで、「最強・最悪」な彼女にエールを送っている自分に気づくことだろう。
年老いてから女装癖に目覚めた老人、「不幸」を売り物にのし上がってきたホテルチェーンの女性経営者、シルバーボランティアをしている老女の号令のもと同窓会を開く元・娼婦たち・・・アイ子の周辺に出没する、奇妙で不気味な脇役たちも、それゆえにどこか愛おしい。
徹底的に共感できないはずの主人公や登場人物たち。読み終わった後の、彼らへの奇妙な共振の正体は、何のだろうか。
それぞれの読者の内にも、アイ子的な「怪物」が棲んでいるためだ、と答えるのはたやすい。
社会規範をはじめてとする諸々の「枠」から逸脱を求めているからだ、と答えるのはたやすい。
そして、おそらく、間違ってもいないだろう。
だが、すべてではけっしてない。
このような答えからはみ出したところに、この作品の、いや、小説というものの持つ魔力があり、魅力があるのではないだろうか。
「答え」以上のものを小説を求める方に、ぜひご一読いただきたい。
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◆『残虐記』で柴田練三郎賞を受賞した著者。同賞の受賞者には、林真理子、浅田次郎、坂東眞砂子など、円熟の境地に達した書き手たちが名を連ねています。そのほかにも、こんな受賞者が・・・◆
平成10年度『神々の山嶺』で受賞した夢枕獏。公式ホームページ「蓬莱宮」では、オリジナル作品も読めます。
平成12年度『夢顔さんによろしく』で受賞、西木正明。「Masaaki Nisiki Official Web Site」では、近況、最新作品などがチェックできます。
平成13年度『きのうの空』で受賞、志水辰夫。「志水辰夫メモランダム」には、連載小説、身辺雑記などが。
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