人気急上昇中の著者の最新作。夢で神の啓示を聞き取ることができる神官を主人公にした大江戸不思議騒動記 |
『ゆめつげ』
・畠中恵(著)
・価格:1470円(税込)
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■著者お得意の「ファンタジー×時代小説×ミステリー」。夢に入って過去や未来を見ることのできる主人公が出会った危難とは?
『しゃばけ』で日本ファンタジーノベル優秀賞を受賞し、デビューした著者。
同作は、身体の弱い若旦那と愛嬌たっぷりの妖怪たちというチャーミングなキャラクターがかもし出す、独特のほんわかムードで人気を獲得。3作目を数える。また、今年に入り、初の現代ミステリーも上梓するなど、エンターテインメント小説の分野において今もっともノっている書き手の一人だといえるだろう。
さて、そんな彼女の最新作は、お得意の「ファンタジー×時代小説×ミステリー」な作品である。
時は、泰平の時代が終わりを告げようとしている十四代将軍・家茂の治世。江戸・上野の端にある社で神官を務める弓月と信行の兄弟は、神主である父を支えて、つつましく暮らしている。
粗忽な兄としっかり者の弟という組み合わせの二人だが、兄・弓月には「夢告(ゆめつげ)」の能力があった。「夢告」とは神社が行う神託のひとつで、夢の中で神の啓示を、人間の力では解き得ない謎に答えを読み解くもの。ただ、弓月の夢告は、どこか的外れで、あまり他人様の役にたっているとは言えない。
そんなある日のこと、社格の高い白加巳神社の神官が、弓月の夢告を借りたい、と申し込んできた。幼い頃に火事でいなくなったままになっている大店のひとり息子・新太郎の行方を占ってほしいのだという。
弓月は、義理と謝礼金にも釣られ、信行とともに白加巳神社に出向くが、その途上で、出くわした母子を狙う刺客の刃に直面することになる。不吉な予感におののく弓月。しかも、その母子は、新太郎の「候補者」とその育ての親だった。そして、神社には、新太郎の候補者と庇護者は、3組も顔を揃えていた。弓月は、請われるままに白昼夢の世界へと入るが、どの親子が真の新太郎か、判断が付かない。
そうこうしているうちに、ある庇護者が殺されるという、とんでもない事件が起こる。さらに事態は二転三転、弓月たちは、神社に閉じ込められることに。果たして、無事に戻れるのか?新太郎探しの行方は? 殺人者の狙いは?
■ほんわか系主人公に、ちょっぴりホラーな味付け。緩急の妙は、さすが!
ある種のサイキックな能力を持ちながら、それを少々持て余し気味。しかも、日常生活においてはかなり頼りない、いわゆる「放っておけない」タイプの主人公は、『しゃばけ』シリーズの「若旦那」と同系列。
だが、そんなほんわか系の彼が見る白昼夢の描写は、わりあい血みどろで生々しく、ホラーな味付けである。このあたりの緩急の付け方に、著者ならではの巧さが光る。セリフ回しで読ませるところと、映像を喚起させるような描写の組み合わせも含め、いかにも漫画で鍛えられた人の強みを感じさせる(そう、著者は、実は、元・漫画家さん。デビュー当時にインタビューしたときに「絵があまり巧くなくて・・・」と自身では仰っておられましたが)
この強みは、人気の『しゃばけ』シリーズでもいかんなく発揮されているのは言うまでもない。
だが、この作品では、それに加え、いくつかの新たな試みがなされている。