『号泣する準備はできている』で直木賞を受賞した“恋愛のカリスマ”が放つ、最新恋愛小説。主人公は、まったくもてない兄弟! |
『間宮兄弟』
・江國香織(著)
・価格:1365円(税込)
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■美しい言葉で淡々と描写される懐かしい情景。ゆったりと流れる時間。江國ワールド全開!
兄・明信、35歳、酒造メーカー勤務。弟・徹信、32歳、学校職員。二人暮らし。読書家、母親思い、模型やジクゾーパスルも大好き。多趣味で、マイペースの兄弟。だが、「おたくっぽい」、「むさくるしい」、「いい人かもしれないけど・・・」そう、まったく女にはもてない。
一念発起して恋人をつくろうと、徹信の同僚、葛原依子と、明信の「心の恋人」であるビデオ屋の店員、本間直美を誘って家でカレーパーティ、花火パーティを開催する。同僚との不倫関係が最終局面にきている依子だが、兄弟にはまったく興味なし。直美は、倦怠期ぎみとはいえボーイフレンドがいる。やっぱり「範疇外」ではあるだが、二人とも間宮家で過ごす時間が意外にもここちよいことに気づく。花火パーティにボーイフレンドと一緒に参加した直美の妹、夕美にいたっては、徹信に関心を抱き、彼の勤め先である学校に顔を出して、徹信を驚かせるのだった。
兄弟のまわりが少しずつざわめきはじめた、そんな折、明信は同僚の大垣賢太に、妻・沙織との離婚話の仲介を頼まれる。仕事仲間の女性と恋におち、新たな人生を始めようとする賢太だが、沙織は離婚に応じない。ひょんなことから沙織を知った徹信は、彼女に心惹かれるが、あっさりと振られてしまう。相変わらず、空振り続きの間宮兄弟。だが、彼らと関わった女性たちの心境には、ささやかだけど重大な変化が・・・
茣蓙を引いたリビング、ゆず湯、八百屋や牛乳屋ミシン屋の並ぶ商店街・・・間宮兄弟がいる情景は、まるで、そこだけ時間が止まっているかのようだ。そんな情景の中で、子どものようにダイヤモンドゲームを楽しみ、カーペンターズやディープパープルを聴き、ワイルダーの映画を観て、子どもの頃からの習慣を大切に生きている兄弟。彼らの日常が平明でリズムのある言葉で淡々と描写され、作品の中を流れる時間に心地よく取り込まれていく。まさに、江國ワールド全開である。
だが、私は、その心地よさの底に、著者が、鋭いトゲを仕込んでいるように思えてならない。
■主人公たちは、確かに「見かけよりずっと味のあるヤツら」だけど・・・
読みながら、私は、考えた。間宮兄弟は、確かに見かけより、ずっとずっと味のあるヤツたちかもしれない。特に、本の話では盛り上がりそうだ。子どもの頃に読んだ『蝿の王』が今でも好きで、ダブル村上はそれぞれに贔屓があって、『輝く日の宮』『カンバセーション・ピース』山本周五郎・・・「読書通」でなく、あくまで「読書好き」という感じがしていいではないか(このあたりの匙加減、つくづく巧い)。
だが、だが、である。結局は、「NG」だな、と思うのである。