現代の猛獣=メディアの餌食になった男が再び、その猛獣と対峙する。空前絶後、「劇場型捜査」の結末はいかに? |
『犯人に告ぐ』
・雫井 脩介(著)
・価格:1630円(税込)
この本を買いたい!
■「このミス」一位の大本命!? メディアを巻き込んだ「劇場型捜査」の行方やいかに?
『巨貌』『火の粉』など、骨太な作品で、じわじわと支持を拡大している著者の最新作。あくまで個人的な意見だが、作品のスケールや力感などから言って、現段階では、今年の「このミス」トップの有力候補だと思う。帯に横山秀夫、福井敏晴、伊坂幸太郎の推薦文を載せるなど、セールスにもかなりリキが入っているようだし。
さて、物語は・・・
ディスカウントショップの社長の孫が誘拐された事件において捜査の失敗を伝える記者会見での暴言によって、地方に左遷された神奈川県警の警視・巻島。容易には消せない苦悩を抱きながらも、ひとり娘が命を賭して生んだ息子を見守りつつ淡々と働き続けていた彼だが、当時の上司であり、県警に本部長として着任した曽根によって、再び、衆目を集める舞台へと引きずり出される。
曽根は、「バッドマン」の名で犯行文を送り付け、自分を非難した女性ニュースキャスターの息子を殺すと宣言するなど、「劇場型犯罪」型の犯人に対し、「劇場型捜査」を行うというのだ。テレビニュースにおいて、計算された量と質の情報を公開し、犯人を炙りだそうという作戦だ。
そして、その作戦の中心物として“メディアという猛獣にいったんは喰われながらも、しぶとく生き残っている男”巻島を、再び、その猛獣の前に出そうというのだ。
その申し出を受け、テレビの人気ニュース番組に出演する巻島。作戦とは言え、時として犯人に真摯な言葉で語りかける彼には、世間の批判が降りかかる。平然と作戦を続行し続ける巻島、警察に送られてくる膨大な数の犯行文から犯人の実像を掴もうとする捜査陣。だが、予期せぬ事態が起こる。ライバル番組に情報が漏れているらしいのだ。巻島は、姿の見えぬ犯人、メディア関係者、世間のみならず、警察内部の「敵」とも対峙することとなる。果たして、彼は、犯人へとたどり着くことができるのか?
メディアを巻き込んだ捜査という設定の新鮮さがまず目を引く。メディアが伝える、伝えるべき「真実」というものがそもそも存在しうるのかという問題定義が作品の底を流れ、ニュース番組制作の現場も丹念に描きこまれており、「今」でしか生まれえない作品であることは、間違いない。
だが、設定の奇抜さだけが本作の魅力ではない。