■「癒し系」を笑い飛ばす!著者の反骨心と「ウケ」に徹した職人魂に乾杯!
この作品に登場する患者たちは、結局、自分で自分を治す(大丈夫、ネタなんてばれたって、この作品の楽しさは少しも損なわれない)。
個人的な見解だが、私は、本作には、バブル崩壊以降世間に氾濫している「癒し系」的なるものへの反発が底流としてあるように思えてならない。
何の警戒心も猜疑心も抱かせず身も心も委ねられる存在、ただひたすらに心地よさのみを与えてくれる音楽や読み物・・・本作を読んで、著者は、おそらく、こういうものから、距離を置いたところで作品を執筆しているのではないかと強く感じたのだが、いかがだろうか。
いやいや、こういう当たりもしないような小難しい小理屈はこのくらいにしておこう。本作には、まったく似合わないのだから。そう、この作品には、「人生しんどいけど、前を向いてがんばらなくちゃ」みたいな説教臭さなど、微塵もない。ひたすらに、ひたすらに、笑える。読み巧者はもちろん、「小説なんて読んだのは、1年以上前」という人にもきっと笑える。保証付きだ。
著者は、昨年刊行された『野球の国』というエッセイ集の中で「わたしはウケることがなにより好きだ」と明言している(百獣の王○○○○の空欄を埋めるクイズには、サダハルと書き込むそうである)が、伊良部シリーズでは、職人として、見事にウケに徹している
いや、嬉しい。こういう作品が、こういう作家が、権威ある賞を獲って。
もう一度言うが、120%楽しめる。読まなきゃ、損である。
さて、もう1作の直木賞作品『邂逅の森』。以前、浅田次郎氏にインタビューした折に、彼が大推薦されていたため、手に取った。マタギを主人公にした、マッチョな作品であり、渾身の力で投げ下ろされた剛速球である。
男性登場人物も女性っぽい最近の人気作品の風潮に敢然と背を向け、いま流行の「ゆるい感じ」ともまったく無縁。この作品が注目されることで、小説から遠ざかっていたある種の読者層が戻ってくるかもしれないと思う。詳しくは、次回のコラムで紹介したい。
この本を買いたい!
受賞作はユーモア短編だが、『最悪』『邪魔』など、がっちりした犯罪ミステリーも秀作!やっぱりこのジャンルからは目を離せない!
賞の権威はともかもとして、「○○賞受賞!」は、新たな作品と出会えるチャンス!文学賞の情報をチェックできるページを探してみました。
直木賞・芥川賞ののほか、菊池寛賞、松本清張賞もこちらでチェックできます。「文藝春秋・各賞紹介」さすが老舗!
『邂逅の森』は、すでにこの賞も受賞。山本周五郎賞の情報はこちらから「新潮社 山本周五郎賞」
選出方法がユニークな賞、その1.毎年ひとりの選考委員によって選出ます賞Bunkamuraドゥ・マゴ文学
選出方法がユニークな賞、その2.本格ミステリ作家みずからが投票で決定します本格ミステリ大賞
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