■思いつめているけど、実は・・・
人のおかしみを冷静に見つめる
そう、ここまで読んでくださった方の中の何人か危惧されている「説教くささ」「ウソくさいキレイさ」とは、この作品、まったく無縁なのである。
だって、この主人公、なかなかに笑わしてくれるんだもん。まあ、自殺の失敗も、滑稽と言えば滑稽だし、死ぬ気だったのに、「歯ブラシはブラシが小さいのじゃないと使えない」なんて言い出すし、究極の「粗食」である朝食のメニューに、あきらかに勤め人ではない田村に「給料前?」とボケをかまして、ずっこけさせるし、付き合っていたカレにこの世で最後のメールを打って、そのことに、生還後に気が付いて大慌てで連絡をとると、まったく真意が伝わってなかったりするし・・・。
思いつめているけれど、客観的に見ると、けっこうマヌケ――そのあたりが実にうまく表現されている。この著者、実は、かなり冷静な観察者なのだろう。
■結末にも「ウソくささ」なし。「ピュア」「癒し系」が苦手な人にも
さて、ラスト近く。「えらい率直やし、適当にわがままやし、ほんま気楽な人」(田村・談)な自分に気づかされた千鶴は、ある決断をする。
どんな決断だったかは、ぜひとも読んでいただきたいのだが、私は、この始末の付け方にも、私は、この著者の「タダものじゃない」ぶりを見た。
ちなみに、瀬尾まいこさんは、作家として注目されている現在も、京都府宮津市(日本海側!この村の舞台は、お近くですね、きっと)で教師として「職場」に身を置かれている。
「癒し系」の物語が陥りがちな「ウソくささがないのは、そのあたりも大いに関係しているのだろう。
「癒し系」「ピュア系」はちょっとカンベン・・・という方にもぜひ一度読んでいただきたい。
この本を買いたい!
著者は、この町、在住。本作の舞台も、きっと近くに・・・「宮津市ホームページ」でチェック!
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